町田桃子

タイトル:繰り返し

※ページ毎にご本人の作品をお聴きになれます

『でも、本当にその感覚なんだろうなと。無骨でまだ諦めていない』

5.好きなアーティスト、憧れのアーティストを教えて下さい

町田桃子:これがねぇ、難しいよね。ほんとね。好きなアーティストはやっぱりたくさんいるから。ライブハウスで対バンしたアーティストでも、「あっ、この人好きやなぁ」と割と思うねんけど。そういうことではないんやんな。

-そうですね。自分の表現を形成しているアーティストはいますでしょうか?

町田桃子:そうやね…。小説家の中村文則*9がすごい好きかなぁ。その人の作品は、文庫版が出るのを待てないから、ハードカバーの方を買ってる。中村文則、西村賢太*10は好きかな。小説家やと。

「中村文則『文学との可能性と面白さ』 – 上智大学・四谷キャンパスで開催された講座(第6講・2017年)」

「西村賢太『“私”の小説の流れ」』 – 上智大学・四谷キャンパスで開催された講座(第2講・2016年)」

-町田さんの中でその方々と”共鳴する何か”があったりするんですか?

町田桃子:西村賢太に関しては、こういう風に生きれる人もいるんだなと。これだけ世間に曝け出せる人もいるんだなって。すごいなと思うよね、その曝け出し方。普通の人だったら、絶対にそんなこと人に言いたくないことを「俺はこんなことも平気で言えるんだぜ」という書き方をしてる。

例えば、息を吸って吐くように「彼女に暴行した」と書ける人。その行為自体を肯定してるんじゃなくて、そこを出せることがすごいなと思って。

-その人の血肉と化しているのかもしれませんね。

町田桃子:そうそう。中村文則さんは、いわゆる純文学の人やねんけど、「人間とは何なのか」を書いている人。ピースの又吉さんが中村さんのことを好きで、中村さんの小説の巻末に書いていたのも面白かった。今まで明治、大正、昭和といろんな純文学作家が「人間とは何だ」を掘り進めていったと。で、あるところまで掘り進めた後に、純文学の世界ではもうこれ以上掘り進められなくなった。そこで横に穴を広げようと純文学作家はやってきたけど、そんな中、「まだ先がある」と、更に奥深くまで掘り進めているのが中村文則である、と又吉さんが言っているの。

「トークイベント:新聞連載、苦労と楽しみ 中村文則氏と又吉直樹氏」

太宰治やいろんな作家が掘って掘りまくって、もうこれ以上進めなくなったと。「もうこれ以上、下はないよ。だから横に広げていこう。そしたら何か見えるかもしれない」と言っている中、未だにツルハシで下を掘り続ける人間。

でも、本当にその感覚なんだろうなと。無骨でまだ諦めていない。格好良いと思うね。絶対に人を殺していないのに、殺人犯をこんなにも書けるんだと。人を殺していないと書けないと思うような表現をする人だから、すごく影響を受けたし好きなアーティスト。

-事前に町田さんは HIP HOP もお聴きになられるとお伺いしています。

町田桃子:俺は日本の HIP HOP が好きで、日本語の使い方がすごく上手い。さっきもちょっと言ったけど、制約があるのが好きで8小節の中で、韻を踏みながら意味を付けるのはかなりの制約。だけど、そこを乗り越えてきて人をワッとさせる表現をする、すごいなと思う。

-韻を踏むことで、だいぶ制約されますよね。

町田桃子:うん、制約される。その中で表現できた時の気持ち良さも絶対あるやろうし、そういう意味での HIP HOP が好きかな。音楽をやっている人というよりも先に、言葉、日本語を扱う人として小説家だったりラッパーが好き。

-HIP HOP からご自身の作風に影響を受けることはありますか?

町田桃子:歌詞の中で韻を踏みたいと意識したりはするね。

6.構成する9つ



1.中村文則『悪意の手記』(小説)
何度も読み返している作品。人を殺さずに、人を殺すとはどういうことか、こんなにも表現できるものなのかと思った。

2.藤子不二雄A『まんが道』(漫画)
パンにメンチカツ挟んで「んまーい」。度々人にあげては買い直すを続けている作品。

3.川崎のぼる/梶原一騎『男の条件』(漫画)
小学生時代に読み、感動とは何かを考えるきっかけになった作品。

4.三池崇史『IZO』(映画)
豪華俳優が次々斬り殺される。友川カズキを初めて知った作品。

5.羽生先生(先生)
小学校6年時の担任。作文に「楽しい」、「悲しい」などの感情を表す形容詞を使わせてくれなかった先生。ありがとう。

6.宿無ノ以蔵(バンド)

初めてライブハウスに出演した時の対バン。音楽的に影響を受けたと思う。初めてのライブの対バンがこの人達ではなかったら音楽を続けていたか分からない。

7.友川カズキ(歌手、競輪評論家、画家)

この人の様に生きれないことを悔しく思ったり、安堵したりする。

8.西村賢太(作家)
さも当然の様に、自分の暗部を書く人。影響をもろに受けていたら自分が全く違うものになっていたと思う。出会う時期が良かったのか悪かったのかは分からない。

9.井上陽水『少年時代』(音楽)
歌詞、メロディーともに憧れ。

『目標じゃなくて、日々の積み重ね』

7.今後の目標を教えてください

町田桃子:本当に考えてるのは、この後の撮影で行くボートレース江戸川で勝つこと。本当にそれは思っている。

-このすぐ後の目標ですね。

「取材後のボートレース江戸川での様子(収支:マイナス43000円)」

町田桃子:今後の目標ね。「ない」とは言いたくないし難しいよね。ない人もいるやろうし武道館ライブの人もいると思う。その「ない」と「武道館」の間かな(笑)。ただ、めちゃめちゃ良いなと思ったのがさ、新庄さんが日ハムの監督に就任したときの記者会見で、「優勝は目指しません!」と言ったんだよね。
「何気ない一つの試合、日々の練習、勝ち星を積み重ねて9月くらいに優勝が見えてきたら優勝を目指します」って。

やっぱり俺もそう思うよ。目標じゃなくて、日々の積み重ね。もちろん、デカい目標が一つあることは大事やけど。それとは別に、日々積み重ねていくので良いと思ってるから。

「新庄剛志監督 就任会見」

-気が付けばすでにそうなっていた、そういう塩梅ですかね。

町田桃子:そうなのかも。でも、勉強しててさ、「100点目指したら100点取れませんよ」と言うやん。「120点を目指す勉強をして、初めて100点が取れるんですよ」って。そういうのもあるから、デカい目標があると良いのかなとも思うし。

デカい目標としてはやっぱりこう……死ぬまで音楽をやる。俺は絶対にライブハウスの老害になってやろうと思っているから(笑)。

-ライブハウスの方も、このインタビューを読むのかもしれません。

町田桃子:そうやね。口滑らしてるわ(笑)。

『お金によってある程度の線引きがされるから、いいんじゃないかと思う』

8.お金についてどう思っていますか?

町田桃子:パッと頭に思い浮かんだのは、お金があることによって、ちゃんと秩序が出てきてるから良いのかなと。お金がなければもっと秩序が乱れていただろうし。

お金があることによる乱れも絶対にあるけど、お金があることでここまで収まってるのかなと思うこともある。「お金が悪」とは特に思わないし、お金によってある程度の線引きがされるから、いいんじゃないかと思う。

-なるほどです。見る側面により変わってきますよね。

町田桃子:欲しいけどね(笑)。


*9 中村文則…日本の小説家。2002年に「銃」で第34回新潮新人賞を受賞しデビュー。
*10 西村賢太…日本の小説家。私小説の書き手として知られている。


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