ただ、ひたすらに産み出し続けるアーティスト
※1ページごとに、本人の作品をご覧になれます
寒さが続く東京の2月、原宿にあるギャラリー「SPACE BANKSIA」にて、アーティストWOODさんが個展を開催していました。『破壊と生産』をテーマに活動を続ける彼は、木の根から溢れてきたような柔らかなエネルギーを持っています。とても自然体であり、クルーとの邂逅・グラフィティ文化での経験は、彼の”自然体”が引き寄せたのではないでしょうか。
ダイナミックな作風の裏には、創りつづけてきた者のみが持つ下地があります。
「受けいれること」「続けること」、それはアーティストの最低条件なのかもしれません。WOODさんはそのふたつを持ち合わせ、新たな創作のステージに進んで行っているようです。
「人生常に3番目」と笑顔で言い切るその姿に、彼の本質が少しだけ見えたような気がしました。
『絵を描くのがとりあえず好きだし、絵を描くことしか考えていなかったんで』
<インタビュー>
1.なぜ創作をやっているのですか?
WOOD:あんまり、考えたことはないんですけど、幼少期から絵を描いたり、創作をするのが日常だったので、ちょっとしたライフスタイルなのかなと思っていますね。
-物心ついた時から創作をしていたんですか?
そうですね。物心ついた時にやっているのが普通な感じだったんで、習い事という感じじゃなくて。
家が酒屋をやっていたので、段ボールとかポップを書くマジックペンとか、そういうのを用いて作っていましたね。店番をやっていて、暇だったので、絵を描いたりしていて、漫画家になろうと思ったんですよね。
絵を描くのがとりあえず好きだし、絵を描くことしか考えていなかったんで。漫画家になろうと思ったんですけど、絵で何の仕事があるのかとか、漫画しかわからないじゃないですか。それしか思いつかなかったから漫画家になろうと思って、でも、いざ漫画を描いたらすごく面白くなくて。
ストーリーを作るのももちろん面白くないんですけど、描いている自分に「もう、はやく、終われ。どうでもいい」と。どんどん雑になるし性格に合っていなくて、漫画をきちんと描いたのは高校生だったんですけど、つまらなさすぎて。
-家の環境は創作に向いていたんですか?
WOOD:環境は最高でしたね。倉庫もあり画材やカッターなどもいっぱいあるし、段ボールの棄てるやつを切ったりして、工作をしたりしていましたね。ただ創ったものにあまり魅力を感じない。創る過程が好きなので絵とかもすぐ捨てて、そういう感じやったんですよ、ずっと。
最中が好きです。だから、昔のやつとか残っていないです。
-なぜ、最中が好きなのですか?
WOOD:ワクワクしますよね。描いていて、やっぱり。いいものが描けていっているというか、作品を創っているわけではないんですけど、ワクワクしながら。やっぱりいいものができたら、嬉しいじゃないですか。その気持ちでガッと描いたり作ったりして、次の日には無くなっているという(笑)
-良いものができてきているという感覚が良いのですね。
WOOD:なんですかね。単純に楽しかった。
幼少期はそれでよかったんですけど、進路のことを考えた時に「このままじゃだめだ、描かないといけない」となりまして、高校生の時に漫画を描いて、つまらない。どうしようという時に、中学ぐらいからグラフィティが好きだったんですけど、当時、ネットとかがあまり発達していない時の日本で発行されているグラフィティのマガジン『KAZE MAGAZINE』を見て、衝撃を受けて。
-どういう部分に衝撃を受けたのですか?
やっぱり、カッコいいんですよね。グラフィティという言葉もわからずに読んでいたんですけど、「なんだこれは、街にこんなのを描いている、落書き」って(笑)
カッコいいと思う年齢だったんですよ。
それからストリートで落書きを見るようになって、真似したり先輩からもらった髪の毛を染めるスプレーでかいたりしていました。僕ダンスをやっていて、通っていた公園にダンサーも多くて、BMXとかスケーターとかストリートカルチャーの奴らがいっぱいいるような公園で、そこのBMXをやっている先輩がクラブでライブペイントをやっていたりしていましたね。
-ちなみにどこの公園ですか?
WOOD:大阪の長居公園。ドームがあってその周りがスケートをやる場所で、ダンサーの場所、BMXの場所みたいになっていた。すごい良い環境でそこで今活躍しているぺインターの方がBMXをやっていたり、スケーターの中にもぺインターの人がいたり、こういう世界があるんだなって。
グラフィティもペインティングも色々と触れて、漫画以外にもこういう道があるんだなって、その時思いましたね。
高校生ぐらいの時に、この道に行きたいと思った最初ですね。
そこから、高校1年生ぐらいなんですけど、ノートに描いて、作品を残すようになったんですよね。
ペラペラですけどファイリングをするようになって、コピー用紙みたいなのに授業中に描いて、一日一作つくるみたいな。
クリアファイルに綴じて、色んなクラブに行って人に見せたりとかしました。
-アナログですね。ダンスを始められたきっかけはあるんですか?
WOOD:ダンスは高校の時から始めたんですけど、ヒップホップカルチャーに興味を持っていた中学2年生の時に、岡村隆さんがブレイクダンスをしたんですよ。
僕らの歳、1986年の年は岡村隆さんをみて、ブレイクダンスを始める人がすごい多かったんですよ。高校に入った時に絵ももちろん描いていたんですけど、別のクラスにウィンドミルができるヤツがいる。で、教えてもらって。それがダンスの入り口ですね。
-ダンスと絵は気持ちの入れようというか、また全然違ったものですか?
そうですね。絵は学校で描いて、終わったら長居公園にストリートにダンスをしに行って、夜はグラフィティを見にいくライフスタイルでしたね。ただ、僕は性格的にコミュニケーションが好きなタイプなので、もっと、こうアートを、コミュニケーションをとって、関わってやっていきたいなというのはありますね。社会に認められた上でというか。
『破壊しかないんじゃないですか。全部壊すしかないんじゃないですか』
2.創作の方法について教えて下さい
WOOD:キャンバスと造形と壁画、それぞれあります。
キャンバスはペンキを使ったりマジックを使ったり、壁画はスプレーやペンキで描いたりですが、画材とかにあまりこだわらないで何でも使って表現をしていこうかなと。
-キャンバスや壁画など描く対象によって心持ちはそんなに変わらないですか?
WOOD:そうですね。僕の中でグラフィティ、壁画は仕事じゃなくても描きたい。
BBQしながらお酒を飲みながら、レジャーとしてやりたい。キャンバスはちゃんとした作品にして、色んな人の手に渡っていってもらえたらなと。
造形に関しては、僕のメインテーマが『破壊と生産』なので、モノは破壊してこそ、新しいものが産まれてくるという感覚です。
-『破壊と生産』、小さい頃に作品を残すというより創る過程が好きという話と繋がりますね。
WOOD:合っているなって。昔先輩に「便利すぎる世の中どうしたら良くなると思う?」と問われて、「破壊しかないんじゃないですか。全部壊すしかないんじゃないですか」とか言って(笑)
納得してくれてました。破壊こそが新しいものを生み出す、生産だと。身の回りで使えるものは全部使って、ゴミだろうが。昔ダンスをやっていた時は靴とかすぐにボロボロになるので、もったいないからそれに絵を描いて友達にあげたりしていました。
-ちなみに物持ちとかはいいですか?
WOOD:愛用品とか全然ないんですよ。棚とかも安物を買って、ぐちゃぐちゃになったらすぐ捨てますし。
-なくなっていくことが当たり前?
モノをあまりきれいに使わないので、工具とかはもちろん商売道具なので、丁寧には使いますけど、服とかもすぐ汚しちゃって。
-具体的に作り方の順序とかあるんですか?
WOOD:あまりないんですよね。グラフィティの時は下書きも何もしないことが多いですよね。フリースタイルで思いついた通りにやるみたいなのは多々あります。仕事とか最初に決まっていたら下書きとかはしますけど、そうじゃなければバーンと。
考えていいのが出てくるタイプじゃないから、やっていくうちにいいものが産まれてきて、そのピースを後で埋めていくみたいな。今回の展示会は最初にテーマを決めて、そういう世界観で描くとは決めたんですけど、描きだしたら、よしこれを描こうぐらい。
-描きながら選択していくんですね?
WOOD:そうですね。世界観だけは統一させていきますね。
-感覚的ですね。
WOOD:考えても全然ダメなタイプなので。
-普段、閃く瞬間とかあるんですか?
WOOD:それは、ありますね。車運転している時とか考え事はするので、考えるというか「これは実はこうなのではないか?」みたいな。一回、閃いたらトントントンといきます。ただ、停止したら何も動かなくなります(笑)
-なぜ、閃いたりするのだと思いますか?
WOOD:なんで、閃くんだろ(笑)楽しいからじゃないですか。
閃いた瞬間…なんでなんですかね。やっぱりそれって今までやってきたものが、ばらばらなものがきゅっとなる瞬間とかですかね。
-少し話が変わりますが、グラフィティと触れ合うようになって好きな絵の描き方とか種類とか変わったんですか?
WOOD:グラフィティってスプレーのイメージがあるじゃないですか。スプレーもやっていたんですけど、なんせ高いのでスプレーは。ハードルも高い。やってはいたけど、あまり機会がなくて。先輩とかは筆でペンキでやっていたんですよ。
スプレーもたまにはするんですけど、その時からペンキも使って。グラフィティだけではなくて色んなことをやってきたので。
その先輩がめちゃくちゃうまくて、何を描かしてもすごいうまくて、なんじゃこれみたいな。当時の大阪のイベントのフライヤーになったりしていて、こうなりたいみたいなのがあって、そこからは鉛筆も筆も描いたりしました。
-最初は先輩を目標にされていたんですね。
WOOD:「追いつくぞ!」みたいな。全然追いつけている感じがしなくて、今でもリスペクトしていますね。
年齢は10ぐらい離れているんですけど、大阪に帰ったらたまに会いに行ったりして。
-その方との印象に残っているエピソードってありますか?
WOOD:先輩からはおにぎりと呼ばれていて(笑)「おにぎりは偉いなぁ」と言ってくれます。ようやってるなあって、でも絵は褒めてくれない。
「おにぎりは安心やわ」みたいな感じで言ってくれるんですけど、絵に関しては触れてくれないですね。スプレーはうまいなぁみたいな。「俺は褒めへんから」という厳しい、プライドを持ってやっている人ですごい納得なので、いつか言わしたろうと(笑)
-素敵な関係ですね。
WOOD:そうですね。心の師匠ですね。
-woodさんは創ることに対して、純粋な感じがしますね。
WOOD:向いていたのだろうなと、好きですね。やっぱり。