第34編

響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い- 拡充版 02

2025年に刊行したミュージックガイドブック『響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い-』(羊目舎)はスポークンワードの入門的一冊を目指して制作されました。
本稿はそのスポークンワードガイドをさらに充実させるブースターテキストのようなコラムとなります。入門的・平均的であることを意識した『響きあう詩人たち』の枠組みを外して、さらに自由に書いていきます。
意図を汲んで、掲載してくださった auly mosquito の笹谷創さんに感謝しております。
ウェブという特性を活かして、楽曲の URL がリンクできる作品は貼りつけてありますので、ぜひ聴きながらコラムを楽しんでください。



NDARICCA
むしろちょっとしたチャンス
NdariCompany / NDARI-001 / CD / 2023

ンダリカ、と読むこのミュージシャンは、ギターとルーパーを駆使した R&B 調のサウンドと力強い歌声に深い魅力が備わっている。長いキャリアの中で実に十五年ぶりになるというフルアルバム。六曲目「地下鉄の駅まで続く長い遊歩道」は映画監督のシタンダリンタがポエトリーリーディングで全面的に参加している。映像の浮かぶような朴訥として優しい声音のシタンダの雰囲気を支えるようにしながら、かつ骨太に楽曲を作り上げる NDARICCA の表現力も素晴らしい。



斉藤木馬
朗読集「嗎」
MOKVA SOUNDS / NONE / DIGITAL / 2024

圧倒的完成度でリスナーを詩と声の世界へ引きずり込んだファーストアルバム『詩集朗読集「安心」』(MOKVA SOUNDS)から三年の時を経てリリースされたミニアルバム。「信仰」から始まる本作は木馬節と形容したいようなフロウで独自の詩的情景を一つ一つ丁寧に立ち上げてくる。その丁寧さというのはぶっきらぼうなようでいて繊細な職人的手腕のそれであるという実感については、聴いてみると首肯してもらえると思う。夏目漱石の小説の一編から触発された「第七夜(Inspired by 夏目漱石)」はクノタカヒロと君嶋復活祭とのコラボ曲「夢十夜」(『オトトシノブンガク』収録)も併せて聴きなおしたくなる。



新種のImmigrationsB
ピクニック紀
SELF-RELEASED / NONE / DIGITAL / 2024

株式会社スマイルズ(Soup Stock Tokyo など多数の事業を展開)の代表取締役である遠山正道が起こした小さな国をイメージしたオンラインコミュニティ【新種のImmigrations】。このコミュニティから始まったバンドによるファーストアルバム。【踊れる朗読、やさしいノイズ】を標榜する本バンドのメンバーは遠山正道(ポエトリーリーディング)、澤田知子(ギター)、澤田アンドレ詩生(ドラム)、街角マチコ(テルミン)、森脇淳一(コネクター)の五名から成っている。その肩書に遜色なく、骨太かつ柔和な空気を演出するバンドサウンドとともに、遠山の人を包み込むような軽みのある声がリスナーへと浸透していく。全編通してあまり聴いたことのない独自の世界観を演出している。コトナや MELODY KOGA が好きな人にオススメと思われる。また遠山の Youtube チャンネルには彼らと野宮真貴がコラボした動画もアップロードされているので、こちらも要チェック。



吉増剛造
DOMUS X
コトニ社 / 978-4910108155 / CD+DVD+BOOK / 2024

2021年刊行の詩集『Voix』(思潮社/第一回西脇順三郎賞受賞作)と詩論集『詩とは何か』(講談社現代新書)に続く、吉増の映像日誌集。吉増はコロナ禍の時期を契機として、gozo Ciné に連なる映像プロジェクトを Youtube に発信してきた。そのプロジェクトは【葉書Ciné】、そして【Smoky Diary】、【gozo’s DOMUS】と変遷していく。それらの文章的記録が本書にあたる。この作品は書物に留まらず、二枚の CD と一枚の DVD、そして肉筆原稿までが内包された詩的美術の一作でもある。【illuminatio / ray】と題された DVD には現在の吉増による「石狩シーツ」朗読が収められており、CD の【illuminatio / voix】には吉増の【聲ノート】を想起させる録音の断片が収録されている。そして、スポークンワードという文脈からは外れるが一際注目したいのが【illuminatio / marylia】と題された妻にして歌手の Marylia によるフルアルバムである。中上健次とも交流の深かった彼女は『石狩シーツ』のレーベル元でもある Angelica House より『River Goddess』(1988)と『The Moon Close To My Face Is A Fish』(1994)の二枚のアルバムを出しているものの今では入手困難であるため、このように歌手 Marylia の歌だけに聞き惚れる機会が持てたことは貴重だ。青葉市子のような深い森の奥から響くようなスピリチュアルな歌声にぐっと引き込まれる。



よだか
片道切符
SELF-RELEASED / UNKNOWN / CD / 2024

ファーストアルバム『初期微動』によって響き渡ったポエトリーラップの咆哮。その残響/余韻が聞こえている内にリリースされたフルアルバム。先人への敬意を抱きながら、様々な学びと経験によって培った自分だけのスタイルを確立しつつあるのはいずれの楽曲からも感じられる。よだかのリリックは弱い自分も内包しながら自らの風景すらも変えようとする言葉──その力を信じていることがしっかりと伝わってくる。「雨降りの日曜」に満ちるリリシズム、ししど客演により双方のスキルが光る「コンプレックスを抱いて眠ろう」、本作の質を一層向上させたミュージシャン/ピアニスト・栗田佳奈子とのフリースタイルセッションにも圧倒される。



LITE
STRATA
HIP LAND MUSIC / IWTM-1013 / CD / 2024

2003年に結成され、常に進化を遂げてきたインストバンド・LITE。筆者の私も大学生時代に何度も聴きライブにも足を運んだ思い出深いバンドだが、彼らが遂にインストだけではないアプローチを見せた新機軸の一枚だ。と言っても完全に歌物へ転化するわけではなく、あくまで声という楽器を加えたという印象があり、個人的には F.I.B JOURNAL のようなテイストを感じる。スポークンワードを前面に押し出した「Dark Ballet」が最高だが、同時に LITE 節を失わない攻めまくったバンドサウンドもノリにノレる。2000年代初頭は 8otto や REBEL FAMILIA など、音楽の構築性が高いバンドやユニットが多く、印象深く今でも聴きかえす。本作が気に入った方は、名古屋で活躍するインストバンドの /naname も併せて聴いてもらいたい。



背前逆族
不死者
SELF-RELEASED / SKTS001 / CD / 2025

関口マーフィーが率いる背前逆族(うしろ前さかさ族)は2009年から活動を続けてきたパンクバンドであるが、2025年末を以って解散が決定し、本作は渾身のラスト・アルバムとなった。メンバーは関口の他、missile、希、オオイ、浮乃によって構成されている。凝縮された音楽の中をのたうち回るような関口のボーカルが印象的だ。激情と想念の潜む彼らの音楽はグロテスクな変調子がありながらも聴かせる毒々しい魅力に満ちている。



擬態屋
Strong memory
ROSE RECORDS / ROSE359 / CD+BOOK / 2025

写真家・佐内正史とミュージシャンの曽我部恵一という異色のユニット・擬態屋。2022年リリースの『DORAYAKI』(ROSE RECORDS)以来の2ndアルバム。曽我部らしい優しい音色と歌声、佐内による素朴なポエトリーリーディングによる音の空間は静かに人の心に沁みこんで、リラックスさせてくれる。本作はCDと写真集がセットになった作品であり、佐内の写真世界を音で体感できるような一枚になっている。お互いの都市感覚というか、都市を見る目や聴く耳が静かに摩擦を起こして、心を温めるような柔らかい一作だ。




此処に在る
SELF-RELEASED / NONE / DIGITAL / 2026

バンド活動と並行してポエトリーリーディング作品を MV として発表してきた然がミニアルバムをドロップ。以前紹介した「我想フ前ニ我在リ」も収録された本作は BEAST CROWN のメンバーであるGUNxCの別名義・primitronics による全面プロデュース。ラストの「旅路」には名古屋ポエトリーシーンの朋友・純輝が客演参加しており、それぞれの個性を遺憾なく発揮している。メロコア系のバンド Ayui の NARUMI 名義のときとは全く異なる表現に驚く人も多いかもしれないが、なんとなく Ayui と然の活動を見ていると、Analogfish と下岡晃のような表現の深さへと至っていくのではないかとさらにさらに期待をしてしまう。



ミナミイズミ
掴みたい光
無原唱レコード / UNKNOWN / CD / 2026

株式会社 RIOT MUSIC が運営する VSinger レーベルに所属しているシンガーソングライターによるファースト EP。ミナミは Vsinger というヴァーチャル歌手として活動しているアーティストである。Vsinger とは Vtuber などの2.5次元コンテンツであり、配信やゲームなどではなく、歌唱を主軸にするアーティストであるとのことだ。そんなミナミがすべての作詞作曲を手掛けた本作は、自らを愛しながらも、自己を常に突破していくブレイクスルー(覚悟)が込められている。バラードのような力強さもあればラップやポエトリーリーディングなどの表現の幅をすべて詰め込んだ気合の入った一枚だ。この EP をひっさげてワンマンライブ『この声が枯れるまで』を下北沢ReGにて開催。



今回のコラムのようなスポークンワード作品を紹介した『響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い-』(羊目舎)は下記オンラインストアにて販売しております。ぜひ気になる方は入手してみてください。

《羊目舎 Online Store URL》
https://hitsuji3poem.base.shop


(文章:遠藤ヒツジ)

前編:響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い- 拡充版 01

『光よりおそい散歩』

 


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