響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い- 拡充版 01
2025年に刊行したミュージックガイドブック『響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い-』(羊目舎)はスポークンワードの入門的一冊を目指して制作されました。
本稿はそのスポークンワードガイドをさらに充実させるブースターテキストのようなコラムとなります。入門的・平均的であることを意識した『響きあう詩人たち』の枠組みを外して、さらに自由に書いていきます。
意図を汲んで、掲載してくださった auly mosquito の笹谷創さんに感謝しております。
ウェブという特性を活かして、楽曲の URL がリンクできる作品は貼りつけてありますので、ぜひ聴きながらコラムを楽しんでください。
Genius P.J’s
Come Back Home
Human Experiment Records / UNKNOWN / CD / 2025
2000年にビートメイカーのクロダセイイチと MC の chamois を主体として結成されたヒップホップバンド。2025年11月21日に GRIT at Shibuya で主催したイベントで活動を終了させた彼らが残したラストアルバム。疾走感のあるロックテイストもドープなヒップホップサウンドも巧みに取り入れ、それを乗りこなしてきたラップにはライミングなどの技術だけでなく、それを越えていくような深い説得力がある。彼らのアルバムは DEEP COUNT が客演参加した『republic』なども思い出深く、本作にも「DEADMAN WALKIN’」や「PEOPLE」、そして色褪せることのない代表曲「COME BACK HOME」も完成形が収録されている。クロダセイイチは詩人の成宮アイコとも音源をリリースしているので、こちらもチェックしてほしい。
cinema staff
PLASTIC YOUTH
THISTIME RECORDS / CNM-013 / CD / 2025
三年半ぶり、八枚目のフルアルバム。cinema staffは岐阜県出身のオルタナティヴ・ロック・バンドで、飯田瑞規、辻友貴、三島想平、久野洋平の四人組。期待を裏切らない完成された一枚であり、ラスト「BRIGHTER」にはボカロP/シンガーソングライター/トラックメイカーの水槽が客演参加、畳みかけるように早く、しかし平静を思わせるラップ的スポークンワードを披露している。飯田のスポークンワードは反して速度を抑えて声の熱が感じられて、その対比も見事だ。
上-JYOUGE-下
Poetry
FLOATSYNC / NONE / DIGITAL / 2025
本作は2025年にシングルリリースされた「Kamome to Umi」、「Unreal」、「Dazzling Smoke」の三曲に加えて新曲「Diffuse Reflection」で構成された EP となっている。浮遊するようなテクノサウンドの波の中を、Kai Goto の朗読がたゆたっている(詩はTsubasa Arakawa によるもの)。横ノリで音の波に没頭するような体験の中、導きのように静かに発せられる声が一層その陶酔感を深くさせてくれる充実感のある一作。UNDERWORLD が好きな方にもオススメ。
セブンス・ベガ
PRINCESS
7V / 7V7V-0001 / CD / 2025
シブヤカンナ、ソラ、ハイブリッドマイマイ、サコティッシュフォールドの四名による東京発シティロックバンド。作詞作曲は中心人物のシブヤカンナが担当している。低音を効かせた心地よいボーカルは歌もラップもスポークンワードも巧みに使いこなしている。また楽曲や歌詞の雰囲気もシティポップとロックの良さをミックスしており、シティロックという肩書に偽りがない。「東京ラブストーリー(2025Ver.)」では全編にスポークンワードが用いられて、「卵と牛乳とレコード」では間奏での語りが洒落っ気たっぷりに挿入されている。
ながし
流れつづける水の歌
SELF-RELEASED / NONE / DIGITAL / 2025
書籍版『響きあう詩人たち』では2024年の項で、ながしのリリックビデオである「がらがら」をピックアップしている。その際に詩集刊行とともに正式な音源のリリースを待望する旨を書いたのだが、その願望を叶えてくれた。ながしは2024年からYoutubeを通じて優れたヒップホップを公開してきた。それらの楽曲はながしの個人詩誌とリンクするものであって、非常に先鋭的な詩的活動であった。その活動の一つの結実がこのEPであり、かつ2026年に刊行予定という同タイトルの詩集である。本作自体は高品質の純粋なヒップホップである上に、現代詩に培われた緊密にして精緻なるリリックとドープなトラックを堪能できる。本作を聴いた方は、ながしが楽曲提供もしている毎亡ヤン(aka 和知多雅、Nadybi)のEP『gakugaku』もチェックしてほしい。
古川日出男、管啓次郎、小島ケイタニーラブ、柴田元幸、北村恵、後藤正文
ラジオ朗読劇 銀河鉄道の夜
KADOKAWA / NONE / DIGITAL / 2025
【朗読劇 銀河鉄道の夜】は多くの公演を重ねてきている。その中で、音声記録メディアとしては第四弾となる本作はオーディオブックとしてリリースされた。朗読劇メンバーに加えて、交流の深い俳優の北村とミュージシャン・後藤を加えた構成となっている。元々は2023年にふくしまFMとエフエム岩手の共同特別番組としてオンエアされたものであった貴重な音源に、後藤と小島による特典対談が付されている。銀河ラジオの DJを務めるゴトウに届けられた一通の投書から始まる壮大な六十分強の劇は震災の記憶と賢治の見ていた世界や信じていた宗教など数多に折り合わせて綴られた哀しくも温かい希望を残す夜の一幕である。
heimrecord
Gururi
P-VINE RECORDS / PCD-18925 / CD / 2025
日常のなにげない風景をシネマチックに抒情掻き立てる歌の世界へ作り上げてしまうシンガーソングライターによる1stフルアルバム。ノスタルジックに切り取る要注目の女性 SSW。俳優やアート表現など音楽だけに才能を留めない彼女が満を持してリリースした本作は独特の味と芳香を放つアルバムに仕上がっている。堀込泰行作曲の「夏の波紋」、フィッシュマンズの名曲「ひこうき」のカバーなども見どころである。フォークや歌謡曲にルーツを持ちながら、それらを要素としてハイブリッドし世界観を構築させている点が素晴らしい。声によるサウンドスケープという点から haruka nakamura とコラボしてほしいと感じるような魅力あるミュージシャンだ。「生成色の壁」と「給水塔と手のひらの銀河」もアルバムの中に潜む幕間的な効果を持ちながら、その声と詩の世界は深く印象づけられる。
もっちゃ
Heartfelt
SELF-RELEASED / NONE / DIGITAL / 2025
1996年生まれ、神奈川県出身のシンガーソングライターにしてポエトリーラッパー。ポエトリーラップ独特の温かさや人情味をアコースティックギターの柔らかいメロディーが包み込み、歌が感情を増幅させている。リードトラックの「抱きしめて」は十年寄り添った愛犬の喪失を描いた壮大な挽歌。彼女は2023年に日本経済新聞社主催のラップコンテストにおいて〈俵万智賞〉を受賞。
ポエトリーアサシン
比べるクラブ
ULTRA-VYBE, INC. / NONE / DIGITAL / 2026
『面白くない話事典』(飛鳥新社/2024年)出版など、常に言葉や会話における観察を続けてきた伊藤竣泰が音楽家としての名義をポエトリーアサシンに変更してドロップしたスポークンワードアルバム。名義変更前の『いい試合』や『ポイエティーク』などでも、将棋でいえば桂馬飛びのような変則的な動きをしてきているが、本作ではついに敵陣地に踏み込んだ成桂(金と同じ動きをする)のような安定感を見せてくる。この安定感は落ち着きやリリックの安定ではなく、アルバムとしての素地やコンセプトの話であって、彼の観察する環境とか日常の齟齬を描く感覚は健在だ。ポエトリーリーディングの現場で聴いたときに衝撃的だった「グーグルマップ・ギャングスタ」が楽曲として聴けることの嬉しさの他、「ポイエティーク・リーディング」のバニラトラックを引用したキラーフレーズもアガる。リードトラック「夜にサングラス掛けるのなんで?」のおちょくりがアサシン感すごい。成桂になったと表現したが、今後もルール無視で桂馬に戻るみたいな変則的な活動を続けてほしいと期待が高まる。
LOLOET
環響音
TUFF BEATS / TBV-0105 / LP / 2026
一聴して、求めていたものはこれだ、と天啓を開かれるような衝撃のあった LOLOET。アイドルグループ・アンジェルムのメンバーであった和田彩花(2019年卒業)が2023年のパリ留学期間に結成した五人組アンビエント・バンド。フィールドレコーディングやドローン系の音を大切にしながら、神性や自然へと大きく開かれた壮大なサウンドに和田の透明な声が、不可思議な詩を彩るように響いてくる。聴いてもらうのが最善だが、ROVO と popi/jective の志向性を掛け合わせたようなアルバム。ファーストアルバムである本作だけでなく、その他の音源もぜひ追ってほしい。
(文章:遠藤ヒツジ)
前編:爪先に異界──別篇

