『人の中で生きて、人の中で死ぬ』
objective-Sawの哲学と歩み方
タイトル:散りゆくもの
※本人の楽曲を聞きながらインタビューを読めます
レゲエDeejayとしてキャリアをスタートさせ、現在は音楽活動と並行して芸術コミュニティ「auly mosquito」を主宰している、objective-Sawさん。
言った者勝ちの世の中で、仲間がいれば、「コミュニティを立ち上げた」という体を取ることはできるでしょう。
しかし、それを続け、更に輪を広げていくことは簡単ではありません。
Sawさんの持ち前のアンテナの高さとフットワークの軽さ、そして繋がりを大事にする心。
それによってauly mosquitoは継続し、着実に拡大しています。
そんな彼のルーツ、そして目指すものとは?
auly mosquitoのサイトでインタビュー記事の連載を始めるにあたり、「まずは主宰者に話を聞きたい!」ということで、今回Sawさんにインタビューしました。
故郷である大阪で仲間から受けた影響と「考え事をし過ぎてしまう」病の発症、上京してからの創作活動、そしてauly mosquitoの発足とこれからの展望。
12個の質問で過去、現在、未来について迫り、得られた回答。それら
は、Sawさんの指針、行動に繋がっていると納得するものばかりでした。
ぜひご一読ください。
『音楽をしていないことが考えられないからしているのかもしれないです』
<インタビュー>
1.なぜ音楽をやっているのですか
objective-Saw:なるほど…音楽自体が自分の生活の中に組み込まれているので、この質問は「なぜ生活しているのですか?」と聞かれている感じですね。
音楽をやっていることが当たり前すぎて。考えたことがなかったのかも。
-それはもう、昔からでしょうか?
objective-Saw:そうですね。10年前くらいとかは、いろんな世界があることを知らずに、自分の身の回りしか見ていなかったんですけど。
身の回りに音楽をやってる友達がおって、「自分もやりたい」と思って、音楽を始めて、それからずっと音楽が共にあるというか。
なので、なんやろ、子供の頃から聖書を与えれられた人がキリスト教徒になっているような感じですかね。
「なぜ音楽をやっているのか」ということを考える余地もなかったです。
逆に言うと、音楽をしていないことが考えられないからしているのかもしれないです。
-Sawさんが音楽を始めるきっかけとなった、周りのご友人たちは、どういう音楽をやっていたんですか?
objective-Saw:きっかけの人は、友達の友達やったんですけど、彼がやっていたのは、ダンスホールレゲエ※1、ジャパニーズレゲエですね。
※1 ダンスホールレゲエ・・・1970年代後半に、ジャマイカのサウンドシステム文化の中で生まれたレゲエ音楽のひとつ。
objective-Saw:「同い年でこんな風に人前で歌ったりする人もおんねや!かっこいい!」と思って。めちゃめちゃ格好良く見えて。
あとは、中学生、高校生の頃から、兄貴の影響でヒップホップとかレゲエとかを聴いてました。
そういうジャンルを聴いてる人って、当時、学年に2人もいれば良い方で。
聴いてる人が少ない中で、歌ってる奴が身近に現れたので、「あぁ、すげえ」と。
-ご出身は大阪なんですよね。
objective-Saw:そうですね。
-大阪のシーンに影響を受けたりはしましたか?
objective-Saw:そうですね。「そこしか知らなかった」というのが正しいのかもしれないですね。影響も何も、大阪のシーンしか知らなかったっていう。
-大阪のクラブで遊んだり、ご自身が出演されていたと。
objective-Saw:そうですね。当時は自分の中では、音楽=それ(大阪のシーン)という感じでした。
当時と今では、自分にとっての「音楽」という一言の意味合いが全然違いますね。
年々、歳を取るほど変わってきていますね。明らかに。
-音楽の捉え方が違ってきているということでしょうか?
objective-Saw:そうですね。「音楽をしている」という点では一緒なんですけど。捉え方は全然違いますね。同じ人間なのかなって思うくらい、違いますね。
-始めたきっかけの音楽が、当時周りの人たちがやっていた音楽、というのは素敵ですね。
objective-Saw:そうですね。正確には自ら突っ込んでいったという感じですが(笑)
2.創作の方法について教えて下さい
objective-Saw:直感ですね。完全なる直感。
具体的にはもちろん、鼻歌から作るとか、そういうのはあるんですけど。
あとは、音楽って最終的に自分の耳で完成したものを聴くじゃないですか?
できあがって聴いた音をどう判断するのかは、自分の感覚ですよね。
その感覚、判断する基準を自分で持つということになるので、その基準=直感という考え方ですね。
その基準に沿って、良い・悪いを振り分けて、「採用、不採用」といった形で判断しています。
そういう基準が、ある意味、僕の創作の方法なのかもしれないですね。
-SoundCloudにインスト音源を積極的にアップされていますよね。
objective-Saw:そうですね、ビートの作品、歌物じゃないときはより基準が甘いというか(笑)、もう「いったれ!」っていう動機でアップしていますね。
概念的なもの、「捉え方次第やろ?」という気持ちを駆使してますね。完全に。
「悪いものも良い」というか、自分の中の基準の強度をより高めるために実験的にやっています。
なので、ビートを作るときとかは、創作に可能性を見出したいから、自分の中の基準を許容してますね。
一人の音楽をやる人間として、振れ幅をもっと広くするというか。未完成のものもたくさんあげています。芸人のネタ帳公開的な感じです。
※未完成の音は現在、ホームページにアップロードされている
(画像をクリックで視聴可能)
音楽の理論とかは齧っているくらいなんですけど。そういうのって、言ってしまえばあとづけであるのかなと考えています。
アレンジや修正を加えるときに便利なものなのかなって、もちろんそれだけではないだろうけど。ちゃんと勉強していないので勝手なことは言えないですが。
自分の中から生まれてくる音楽は、できたての段階ではやっぱり直感が素になっているというのは、何となく思いますね。
歌物を作るときは、「そんなにドープな音楽を聴かない人でも聴ける」ということを意識しています。
ビートの作品を作るときとは、基準の持ち方を完全に変えています。
-良い意味でポピュラーなものに仕上げるという基準でしょうか?
objective-Saw:そうですね。ポピュラーな、耳馴染みの良いものに仕上げようとしますね。
自分が憧れたアーティストの作品が、大体メジャー性が強いというのもあって。
歌詞は全然ポピュラーじゃないのかもしれないですけど。聴きやすさは意識していますね。
『音楽の奥に人がいる気がするというか』
3.好きなアーティスト、憧れのアーティストを教えて下さい
objective-Saw:三宅洋平さん、UAさん、鎮座DOPENESSさん、環ROYさん、BRON-Kさん、いっぱい…EGO-WRAPPIN’さんも好きですね。
今挙げた方々は、ただ聴いて好き、というよりは、日本で活動していて自分が音楽をやる上で参考にしたいと思っている部分も多いです。
その方々に共通して言えるのは、「その人でしかない」ということですね。
もちろん、誰しもがその人でしかないんですけど、より「その人でしかない」感が強いというか。
というのと、もちろん音楽はすごくクオリティが高いんですけど、「音楽のためだけの音楽」をやっている感じがしないというか。
「根っこにその人の人間性、キャラクター性がある」というのがすごく感じられるアーティストが好きですね。ジャンル問わず、基本的に。
-創作を始めるきっかけになったアーティストは、先ほど挙げていただいた中にいますか?
objective-Saw:若いときの「音楽やるぞ!」っていう動機は、周りの友達から影響を受けた部分が大きいので、先ほど挙げた方にはいないのかもしれません。
今は、どうだろ…声の出し方の強弱とか、鼻腔共鳴のバランス感、スタイルを参考にしている人はいますね。
三宅洋平さんは犬式というバンドを元々やられていて。佇まいとか、力強さがあってファンですね。
UAさんは存在感が圧倒的すぎるというか、「その人でしかない」の最たる感じがします。
-環ROYさんも好きなんですね。
objective-Saw:そうですね。こんなん言うとアレなんですけど、かわいらしさがある、みたいなところで(笑)
-「その人でしかない」というのは、アイデンティティの強さですよね。
objective-Saw:結局そうですね。
-先ほどおっしゃった、「音楽のためだけの音楽をしていない」というのは、具体的に言うと?
objective-Saw:それは自分の根っこにもあるんですけど、例えば失礼ですけど、ただ音楽が好き、音楽のことしか喋ってこない人の話って、勉強にはなっても、自分にズンッと来なくて。
極端なことを言うと、50年くらい根強く下町で生きてきたおばちゃんの一言の方が、グッとくるというか。
そういうおばちゃんは別に音楽をやっていないとしても、そっちの方がより人間的というか、音楽に変換したときに、自分が好きなものに近しいかなっていう。
ある種、言い方はアレですけど、ツール的なところはありますね、音楽は。表現の一つのツールだと思っています。
今聴いてて好きなアーティストは、もちろん音楽が好きっていうのはあるんですけど、音楽をツール、表現方法として使っているなという風に感じます。
音楽の奥に人がいる気がするというか。
4.あなたを構成する9つの作品を教えて下さい
※左上より順にコメントをいただいています
・BRON-K『松風』
メロウな曲が多くて、BRON-Kさんの独特の「間」、メロディラインも最高です。なぜかわからないですけど、冬に聴きたくなるアルバムです。
・EGO-WRAPPIN’『Night Food』
たまにインタビュー動画とか見るんですけど、二人の空気感が好きです。時間がゆっくり流れているけど、スカッと話す感じというか。曲、やっぱり文句無しでかっこいいです。
・UA『11』
UAさんのアルバムはほとんど持っているんですが、段々と魂、アニミズム感が増していっています。音楽を聴いているというか、光を見ているような感覚です。そういうときのもビート的なときのも、やっぱり惹かれます。圧倒的です。
・Dogggy Style/犬式『犬式紀 2002-2008』
昨年、今年と一番聴いているような気がします。何かひとつアルバムを聴いたら、次はコレを聴く。本能と知性がまぐわっていて、音楽としてというか、違う生き方もあると知れたり、バイブル的なものです。
・Bob Marley & The Wailers『Exodus』
全て日本語のアルバムを挙げようとしたのですが、どうしても入れたかった。別次元というか。Miles Davisを聴いたときも思ったんですけど、こう階層が違うというような感覚。
・JAZZ DOMMUNISTERS『Cupid & Bataille, Dirty Microphone』
知の往復ビンタです。言葉とは何なのか、全てまやかしなのか。知的好奇心がくすぐられます。言葉が少し汚いですが、どこか一般をあざ笑っているかのような感じが良いです。
・キングギドラ『空からの力』
初めて触れたブラックミュージックと思います。小学生の時に聴いていました。これを書くにあたり、最近、聴いてみたのですが、また違った聴こえ方がしたり、昔を思い出したり、曲調とは関係なくノスタルジックな気持ちになります。
・尾崎友直『JEHOVAH GOD』
作った曲を友達に聴かせると、「尾崎友直みたいだね」と言われ知りました。曲を聴いてこれは・・と思い、会いに行きました。結果、友直さんが経営しているEARでスタッフをすることになりました。EARは感度の高い人が多く、追求したものだけが辿り着く地ではないかと思ったりもします。
・鎮座DOPENESS『100% RAP』
こんなに絵になる方がいるのかと。「唯一無二」と「センス」が異常に高い点で交わっていて、選ばれし方だなと思います。憧れれば憧れるほど遠ざかる存在です。
『「自分自身は今どんなことを考えているんだろう?」ということを考えたり、ですかね』
5.創作をはじめるきっかけを教えて下さい
objective-Saw:きっかけ、、、昔、19,20歳くらいから、自分では無意識なんですけど、何かをずっと考えてしまう症状に苛まれて。
-考えることに疲れるくらいに、ですか?
objective-Saw:そうですね。脳が、勝手に考え事をするようにできてしまっているというか。
症状が発症した、今思えばそれが創作の始まりじゃないのかという感じがしますね。そのときは表現する道具を持っていなかったというのはあるんですけど、そのときにもう始まってたんかなと思います。
-それは、1つ前の質問で伺った「良い意味で、音楽を一つのツールとして使っている」というのと結びつくなと納得しました。
objective-Saw:そうですね。音楽を表現のためのツールと考える理由としては、考え事をしてしまう症状に苛まれたっていうのがありますね。
-何かを考えてしまうというのは、例えばどういうことを考えるんですか?
objective-Saw:例えば、「自分自身は今どんなことを考えているんだろう?」ということを考えたり、ですかね(笑)
「メタ認知症」と言うんですかね?
発症し始めて、特に「主観」と「客観」に興味が出ました。
大人になるには物事を客観的に見なあかん、というのをなんとなく強く、勝手に思い始めて。
そういうことを考えてましたね。そもそも「客観的に見るとは?」とか。
-Sawさんのブログの前段にある「客観性に収斂せよ」という一言は、すごく印象的ですね。
objective-Saw:それは僕のおじいちゃんが実際に言っていて。23,24歳くらいのときに言われて、「ハッ!」と思って。
一応その、座右の銘的なものにしているんですけど、客観性に収斂した先に何が見えるのかは、それは全然分かっていないです。
基本的にはやっぱり、感情とか、心、人間について考えていることが一番多い気がします。
6.創作活動はいつから始めたのでしょうか
objective-Saw:19歳のときですね。
-先ほど話に出た、メタ認知症を発症した時期と、周りのご友人たちに影響を受けて音楽を始めたのは同時期くらいでしたか?
objective-Saw:そうですね。
そのときは、週4,5くらいでクラブに行っていました。
「ラバダブ」というレゲエの文化があるんですけど、1つのビート、オケに対して、自分の持ち歌を乗せたり、順番に8〜16小節ずつくらい歌うっていう文化で。自分の持ち歌を違うビートに乗せてみたり。即興の場合もあるんですけど。
そういう場所に、夜な夜な行ってましたね。
-面白いですね!
objective-Saw:すごい文化やなと思います。ラバダブの中では、話を繋げつつ、少し歌詞を改造してバッと盛り上げたり、とかやるんです。
ある意味、瞬発力がすごく試される場で。
-じゃあ、クラブでのそういったパフォーマンスが、創作、表現の原点だったんですね。
objective-Saw:原点…創作と呼んでいいのか分からないんですけど、とにかく作ってましたね。
その当時は、ラバダブの図式に当て込んで作っていました。
ある程度、ちゃんとフォーマットに則った作り方をしてたような気がします。
誰かに教わるというよりは、周りの人を見て「こういう感じか」と思って作ってましたね。