明日賀友朗

『夢が見れなくなった先に見えたもの』 
明日賀友朗のきっと明日はいいトモロー

タイトル:鶴太郎のまま

※本人の楽曲を聴きながらインタビューを読めます

少し肌寒くなってきた秋口の下北沢。
インタビューの待ち合わせの時間になって現れたのは明日賀友朗のマネージャー兼共同制作者の山﨑さん。明日賀友朗の姿はありません。
「すいません、明日賀も近くに来ているみたいなのですが」
山﨑さんが明日賀友朗を電話で呼び出します。
「明日賀くん?もう時間だよ。だから自分の名前をそんなに間を置いて名乗らないで。え?場所が分からない?」
それから待つこと5分、山﨑さんに連れられ明日賀友朗が悠々と現れました。
「明日賀、友朗だ」
明日賀友朗とそのマネージャーの山﨑さん、二人三脚で織りなす音楽の秘密を秋の下北沢で探ってみました。

『常に音楽のことしか考えていない。初期衝動の化身なんですよ。』

<インタビュー>

1.なぜ音楽をやっているのですか?

明日賀友朗:それが明日賀だ。音楽家、それが明日賀だ。

山崎さん:彼は音楽に対しての執着がすごいんです。常に音楽のことしか考えていない。思っていることはすぐ音楽にしちゃいますからね。初期衝動の化身なんですよ、この男は、本当に。

-初期衝動がずっと残ったままなんですね。

山崎さん:ぶれないですね。言いたいことがあっても、それを音楽で表現しようとなると普通いくつかステップがあるじゃないですか。明日賀くんはそのスピードが異常に早いんでスッともう…。思うとすぐ音楽になる。

-明日賀さんは伝えたいことはあるんですか?

明日賀友朗:(胸を張ったまま沈黙)

山崎さん:あるっぽいです。いや、あるでしょ、たぶん。社会的なこともモチーフにするし。ただ、彼の過去とか詳しいことはわからないんですけど。

-「メッセージを伝えたい」というのが核にはあるんですかね。

山崎さん:例えば、今回明日賀くんと新しいアルバムを作ったんですけど(2020年『知らん』をsoundcloudに公開)、前回と少し毛色が違っていて、なんかメッセージ性強いなと思っていて。
まあ、僕がメッセージ性強めのだけで括りましょうかということにしたのもあるんですけど。

明日賀くんは周りと馴染め、周りに合わせろ、周りと一緒にやれみたいな風潮に対しては結構反感を持って生きてきたと思うんですよね。あの格好で街を歩いている時点で馴染む気ゼロですから。聞くところによると、明日賀くんって制服が学ランの学校だったらしいんですよ。でも、ピンクパーカーだけで行ったらしいんです、全季節。

「ピンクパーカーを愛用する明日賀友朗氏」

-登校する時もあのピンクの格好だったですね。

山崎さん:だから一学期は毎日呼び出しだったけど、いつしか「仕方ないな、こいつは」ってなって。
停学になっても朝、朝礼にいるから。「いや、停学やん。何してんの」と言われても「明日賀友朗だ」って言うだけで、普通にその日の授業の小テストの予習とかしてたみたいなんで。

先生も「しゃあないな、こいつ。意味わからないな」って。だから、人に合わせるという能力、考えがまったくない。

-それは生きていく上で何か不満みたいなものが心に積もっていったんですかね。

山崎さん:それと抗いながら、上手に無視していたんじゃないですか。
それで、どこかでそれが爆発して、音楽を創るだけのモンスターが産まれてしまったと。

-明日賀さんはパンクやロック、いわゆるカウンター的な音楽を通っていたりするんでしょうか?

明日賀友朗:(聞いていない様子)

山崎さん:わからないですね。明日賀くんの存在自体がカウンターカルチャーであることは確かなんですけど。
僕がすごく明日賀くんのいいなと思うところが、カウンターカルチャーなんだけど、出来るだけポップであるという基本線からはみ出そうとしない。「反抗の気持ちがあるならもっと激しく汚い言葉とか使えよ」とこっちが思っても、明日賀くんはそういう言葉は絶対に使わないんですよ。

-聞いてきた音楽も関係しているんでしょうか?

山崎さん:音楽の話をしていると、明日賀くんは古いフォークみたいなものを、例えば高田渡とかを聴いてきたみたいで。社会と自分をひきつけながら詩として表現するやり方が馴染むんじゃないかと思います。
サウンドの嗜好という意味で、僕と明日賀くんの共通点としては、Fishmansとか好きなんですよね。

ただのポップじゃ嫌でリズムで遊びたいみたいなのが二人ともにあるみたいで、1番のAメロと2番のAメロでは音の上げ下げは一緒だけどのせる譜割りは違うみたいな、そういうのをやりたがるので。

「ほんならそれに合うようにコードもちょっといじろうか」みたいなのはやりますね。

-山崎さんはどういった音楽を聴いていたのですか?

山崎さん:日本のフォーク、ポップスのようなものに加えてKick The CanCrewはめっちゃ聞いてました。
ガッと売れた時に、ケツメイシとかとちょっと違ってラップの声でリズムを刻んでいると思って。リズムの裏のビートに合わせて声を流すんじゃなくて、ビートよりも言葉をバンバン歯切れよく出していく。

特にLittleさんは単語を詰めてリズムをつくるじゃないですか。そのLittleさんのやり方に中学生ぐらいの時にすごいなと思って。その頃は、19とかMr.Childrenとかも聞いていたんですけど、そうじゃないのもあるんだなって。

「汚い言葉を使わない明日賀友朗氏」

言葉を詰めていく、リズムを流れさせないというのであれば、小沢健二も結構リズムの上で遊びますよね。僕が明日賀くんに「やれ」と言って歌わした「痛快ウキウキ通り」ってカバー曲があるんですけど、これは僕の思い出の曲で、ポップスの中であんなにリズムが跳ねていて、可愛くてメロディで遊んでいる曲があるんだって。
父がたまたまCDを持っていて、小学校の時にはじめて聞いたんですけど。

『全国民鶴太郎であれと明日賀くんは思ったので「鶴太郎のまま」なんでしょうね』

2.創作の方法について教えて下さい

-明日賀さんはどういう風に曲を作ってらっしゃるんですか?

明日賀友朗:曲ができる時、それが明日賀が息を吸って吐いた時だ。

山崎さん:基本的に携帯のメモで録った弾き語りの音を送信してくるんですよ。

-一緒に創っているんですか?

山崎さん:それをもらったら次は僕が一人でオケを簡単に作るんです。ライブとかに出す前に、まず全体を形作る。
音源になりそうな雰囲気だけを作っておいて、それとは別に、そこから二人で音源とは別ベクトルになるように弾き語りのやり方を考える(明日賀友朗はライブを弾き語りで行う)。それからライブで披露して歌い方とかを磨いて、歌詞とかいじりたい部分がまとまったら今度はちゃんと本録音しようかと。

そこからオケを作り直して、最終的に音源バージョンと弾き語りバージョン、ふたつの落としどころをみつけるというのが僕たちのやり方で、ふたりでああだこうだ言いながらやっています。

-ライブでさらに修正していくんですね。

山崎さん:そうです。そうすると絶対良くなるんですよ。不思議なことに。

-思い入れができそうな作り方ですね。

山崎さん:そうですね。音源になっているものは、「これで伝わるな」となった練り終わりの歌詞です。それでやっと形になる。

-歌詞とメロディ、どちらを先に考えるんですか?

明日賀友朗:(虚空を睨みつける)

山崎さん:聞くところによると、明日賀くんはいつも携帯のメモに思いついた歌詞を書いていて、その歌詞を寝かすというか、置いているうちに頭の中でメロディとコードの感じが形作られてくるみたいで。歌詞を見ているだけで、なんとなくイメージがダーンと出てきて、それからギターを持つらしいです。

「携帯のメモを活用する明日賀友朗氏」

-他にこだわりはありますか?

山崎さん:僕がいつも明日賀くんに言っているのが、「これ他の曲に似ているんじゃないか」と思うのはよせということ。「そっくりやん」と言われても「知らん」でいいって。似てしまっても、それを理由にボツにしない。

明日賀友朗の曲はコード進行ほとんど一緒です。3パターンぐらいしかないけど、それは作品の良し悪しに関係ないと思っている。手癖もね。
現にaikoさんとか全部それでやってるから。aikoさん、ずっと同じコードの決め、同じ感じの歌詞、同じ感じの歌い方、同じ感じのアレンジで何十年もやってるから、いいんです、あれで。自分で納得すれば大丈夫。逆に「自分で納得していないものは送ってくるな」と。

-そこの良し悪しは直感ですか?

山崎さん:練れていないものはすぐわかります。コンセプトの部分がゆるいものは、もっと練って来て頂戴ですよね。
今回発表した「鶴太郎のまま」という曲なんかは、聴いたときにこういうことが言いたいのねって、すぐわかるものだったので成功例だと思います。さっき話したことと近い内容で、誰かに似ているとかじゃなくて、自分の表現に自信を持ちなさいという話を歌った歌詞で。

鶴太郎さんは30歳ぐらいのときに芸人挑戦シリーズみたいなのでボクシングのプロライセンスをただ取たそうなんです。それだけで1試合もしたことないのに偉そうな顔して世界戦のセコンドに入ったりする。ちょっと取ってみただけなのに元チャンピオンみたいな顔するんです。その自信。書も書いてみて、評価としては「芸人がもの珍しいね」ぐらいなもんなのにもう神楽坂で個展。そのスピード感。

結局58歳で毎朝7時間ヨガをするに至ってしまうんですけど、そのくらい自分がやっていることがイケてると思える人。すごく精神衛生上いいし誰にも迷惑かけないよね、と。全国民鶴太郎であれと明日賀くんは思ったので「鶴太郎のまま」なんでしょうね。

-素晴らしいコンセプトです。

山崎さん:よくいるんですよ、音楽やるんならブルースのなんたら、ロックのなんたらを知った上でどうのこうのって説教してくるおっさん。そういうおっさんの弾き語りはたいしたことない。そういう能書きはいいから、鶴太郎であれと。

「ごちゃごちゃ言わんと鶴太郎をやれ」。そういうことを言いたかったんだと思いますよ、明日賀くんは。

「”鶴太郎をやれ”と語る明日賀友朗氏」

『永遠に水玉の何かを創り続けて死ぬと思うんですよ』

3.好きなアーティスト、憧れのアーティストを教えて下さい

明日賀友朗:明日賀がああなりたいと思う方、それが草間彌生さんだ。ひたすらに、だ。

山崎さん:前から言っていますね。

-どういう観点なんですか。

山崎さん:草間彌生さんは、ものが全部水玉模様に見えると言っているアーティストなんです。
それってやっぱり変じゃないですか、異常感覚じゃないですか。「ものが全部水玉に見える」とか川上哲治の「ボールが止まって見えた」とか。そういう感覚、変じゃないですか。変だし怖いしおかしいし一般的じゃない。
でも結局、そのパンチ一発を打ちに打って、打ち続けてああなって。今や中国でニセモノの個展が開かれるぐらいビックになって。異常な感覚一本でいったという、あれが異常な人たちの到達点なんじゃないですかね。

-そうなるにはどういうプロセスみたいなのは考えたりしているんですか?

山崎さん:明日賀くんや僕がそんな風になるとしたらまぐれが起こるしかなくて。今はグレートであることがわれわれの最重要課題ですから。われわれにとって、われわれがグレートであればそれで良くて。

草間さんって仮に売れなくても、認められなくても、永遠に水玉の何かを創り続けて死ぬと思うんですよ。バイトとかして、バイトしながら水玉描いて、バイトして水玉描いて、ブレイクしなかったらそれで死んでいったと思うんですよ。われわれも全くそうです。

-水玉は明日賀さんにとっての何ですか?

明日賀友朗:(不敵な笑みを浮かべる)


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