小林大悟

※1ページごとに、本人の作品をご覧になれます


『スーべニーア』

『久しぶりにハッとさせられて、それから気になりだして、その衝撃が欲しい..という意味で好きなアーティストですね』

3.好きなアーティスト、憧れのアーティストを教えて下さい

小林大悟:好きな作家は横に広がっていて、1人をぱっと挙げたくないというのもあるんですけど、今はもう明らかに多感な時期じゃないというのをすごく感じていますね。

-多感な時期に影響を受けた人はいますか?

小林大悟:僕が一番影響を受けたのは現代美術作家の奈良美智さんです。本当に生きざまというか、文献や資料とかブログをいっぱい見たり、大学の2年生か3年生の時に3万円ぐらいする全集みたいなのが発売されて買いましたね。お金払って買った中で一番高い画集ですね。

今はそんなにピンとこないというか、勝手にですけど自分の中の憧れていた要素を吸収し尽くしてしまって。明らかに以前より憧れに近い嫉妬というか、今でも好きなんですけど理想的な面ではみられないですね。

色んな作家さんが好きで特に追っかけているわけではないんですけど、最近心を動かされたのはミロコマチコさんです。

「動画:ミロマチコさん大好きな動物の絵を描く」

そんなに歳の離れた方ではないと思います。動物の絵を描くから好きというわけではなくて、自由奔放で、めちゃくちゃ好みとはまた違うんですけど、目指したい方向というか、自分自身の大切にしたい部分を大切にしている方だなって。今までもちょこちょこ気になっていたんですけど、ここ一年でさらに気になるようになったエピソードがあって。

自由が丘の方に仕事でいっているんですけど、その帰り道に駅に戻る外れたルートを歩いていたら、普通の建物、後で建築事務所だとわかったんですけど、外から中の様子が見える大きな窓があるんですよ。その中からものすごく目に飛び込んでくる絵があって、しばらくしてこれミロコマチコの絵じゃないかと思って、側面をじっとみたらサインが書いてあって。

家の中に絵があったりして覗いてみることはあるんですけど、結構な距離からぐっと掴まれたことはなくて。

理屈じゃなくて引き込まれた感じは久々だと思って。色んなものをみてくるとそんなに衝撃を受けなくなってきますよね。久しぶりにハッとさせられて、それから気になりだして、その衝撃が欲しい..という意味で好きなアーティストですね。

-大切にされているというのはもう少し具体的にいうとどういうことですか?

小林大悟:そもそもなぜこの人に惹かれているのかと言うと、若い頃のデビューしたての頃のエッセイを読んでも絵を見てもそうだし、やっぱり描くのが好き。自分の絵を褒めてあげる、好きになってあげる、「いいじゃん」みたいなことを自分の絵に対して言う。この人自体はいわゆる上手い人ではない。それはご本人もおっしゃていて、でも惹きつけるものがある。

真似するとあざとくなるから表面的に似せたいわけじゃないけど、もうちょっと楽しくというか、僕自身は自分の絵を肯定してみてなかったんですけど、吐き出すイメージがあって。この人のエッセイや作品をみて、自分で自分の作品を好きになる、喜んであげるというのは大事なのかなと。

そこについて現物をもって突き詰められた、という意味で好きというか気になる、今現在の憧れです。世界的に活躍されていてファンも多いんですけど、そういう表面的なことよりは姿勢ですね。

『いわゆる器用に技術的にうまくというのが、全くダメ。ただやる気とハングリー精神には満ちていました』

4.創作はいつから始められたのでしょうか

小林大悟:そんなバイタリティに溢れて生きてはいなかった、普通に友達と何も考えずに遊びながら生きていた。自分でもびっくりするほど知能がなかった。小学校にいる時は中学校というものの存在がわからなかったし、中学校を出たらその先には何も存在しないと思っていてしばらくは生きていました。

本当に遊んで先を考えずに…というほど自由奔放で目立つ存在でもないし、そんなにべらべらと喋っているわけでもなくて。
中学の時に仲良い子がお兄ちゃんがそういう道に進んだ影響でデザイン系の高校に進むと聞いて、その子もそういうことを言っていて、一緒についていこうかなという感覚で試験を受けたらその子は受けていなくて(笑)

僕自身は漫画は好きで少し描いていたんですけど、全然うまくはないし見せるというのは特になかった。描いてお話を作るということ自体に興味はあったけど、いわゆる漫画家志望でバリバリやっていたわけでもないし絵も別にうまくなかった。

本当に流されて美術系の高校に行ったら周りがそれなりに意識の高い、それでもゆるい高校だったんですけど。中学校が荒れていて高校がすごい平和だったこともあって勉強も絵も真面目に頑張ろうと思って。

「制作のため滞在した香川県の塩飽諸島・小手島」

-心機一転ですね。

小林大悟:高校もそんなに頭は良くなくて、たかが知れているんですけど授業でいろんなことをやって。
その流れで大学を目指すならとりあえず芸大と。それで予備校に通いだして、日本画で試験を受けた。今思うと浅はかなんですけど、日本画を受けた理由はわかりやすい繊細さという意味で一番技術が身に着くので、日本画にはそんなに興味はないけれど技術がついたら潰しがきく。油絵とかをやると最初から表現の世界だから技術がつかないと…今思うとうまく騙されたなと思います。

美意識感覚が高くてわかりやすくてうまい、高校生からすると憧れやすい。それで目指したんですけど、いわゆる器用に技術的にうまくというのが、全くダメ。ただやる気とハングリー精神には満ちていました。

今思うと気が狂っていたんですけど、高校の時も朝は1時間くらい早く学校に行って、デッサン室の石膏像を置いてデッサンの練習とかをしていて、とにかく人一倍がんばらなきゃと思ってやっていました。それで全然うまくならなかったから逆にすごいなと思います。

同じモチーフをみんなで描いて、それで順位を決めるコンクールみたいなのがあって、一番から下の方はランク付けされずに下手扱いされるんですけど、僕はもちろん下なんですけど、公表の時は人数が多いから遠くから絵を眺めていて自分は愚かなので上位のヤツがてっきり自分の作品だと思って聞いているんですよ。やばいですよね。

そしたら、一番下の方でした。苦い思い出です(笑)

「大学4年春に制作した作品」

芸大はいわゆるストイックなうまさをクリアしないといけない世界なんですけど、僕が入った多摩美や武蔵野とかは表現力というか面白さでとってくれる。諦めてはいなかったんですけど、第2志望、第3志望と受けている中で自分は多摩美の方が向いているんだろうなと薄々感じていました。

一年間浪人したので、お花と生物、石膏像をひたすら1年間描いていたんですけど、多摩美の試験の場合は全然モチーフが違うんです。「椅子にすわっている人物を絵具で描きなさい。実際にテーブルに置いてあるものだけじゃなくて絵の背景をアレンジしてもいい…」つまり、自由に描いていいってことですね。とは言っても、人物がしっかり描けているというのも評価ポイントなんですが、とにかく色んなことをやりだして、今思うとそれも全然うまくはないんですけど、だんだんと人物がどうでもよくなって背景にプラモデルの戦車の箱の画像みたいなのを切り抜いてペタペタ貼ったり、絵としてやってみたいこと、紙を燃やすとかパンクなことをやりだして。

-(笑)

小林大悟:本番では色んなことをやりつつも落ち着いて素直に描いて、合格しました。そういういきさつで日本画に入りました。

-なかなか特殊なパターンっぽいですね。

小林大悟:くそ真面目だったのに合わないところには合わないから、めちゃくちゃ空回りしていた。でも空回りしていた時期があったから寛容さが生まれた。ただダメなものはダメだった。逆にこういうのが描けてしまったら戦いの世界に身を投じて、そういった意識は1ミリも生まれなかったんだろうなって。


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