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「ヒップホップにおけるマッチョイズムとポエトリー」(4 Poetry Artist/詩人達のブレイクビーツ)


「ヒップホップなんて嫌いだ」
そう言い放ったのは、有名ポエトリーラッパーの後輩である。
 彼の言わんとしている事は、かなり理解が出来る。
同時に、それは余りにも広く、詩人の内心やオピニオンでもあった。

 ポエトリーラッパーは、ヒップホップのマッチョイズムやハードコア性に嫌悪感を示す傾向が強い。
 端的に言えば、太いバギーやキラキラのヘッドや、過剰な自己顕示欲や、暴力性の強いリリックが嫌いなのだ。更に言えば、オールドスクールやニュースクールにおける実験性や、ユーモアや、大衆性は好まれているし、いわゆる移り変わるヒップホップのパブリックイメージを裏付けでもあった。
 逆にハードコアのヒップホッパーから見ても同様であり、詩人やポエトリーラッパーの内向性と対極に位置していた。

 自身が、詩人の現場や、SSWS*1 の MC を勤める上でも、最も気を遣ったトピックなのだ。これは、ヒップホップでは無いとか、トラックを使えば、ポエトリーでは無いと言われた時代である。最も「ラッパー」対「詩人」という構造自体にも難はある。これは形式的にトーナメントである以上避けられない側面もあるが、結果的に「ポエトリーラッパー」という面白い立ち位置を生み出した事も事実だ。
 同時に、当たり障りが無く、聞きやすい、ジャジーで綺麗なトラックを、詩人が好む傾向と無関係では無い。

 さて、initial $ は時代と垣根を超えて、マッチョイズムを内包し、ハードコアに理解を示すアンダーグラウンドなトラック上で、様々なラップ及びポエトリーを展開する画期的なプロジェクトである。

 第一回目はブレイクビーツに着目する。ブレイクビーツとはヒップホップの派生において、最も重要な要素である。主に楽曲におけるイントロ部分や、間奏部や、アウトロ部分を指し、メインとなるヴァースや、フックから外れた部分を指す。具体的には楽曲の構成において、ドラムがイントロで、8小節流れていれば、そこを「ドラムブレイク」と定義出来る。

 ブレイク部分が必要だった決定的な理由がある。
それが、「DJ とダンサー」である。
 これらを通じて DJ プレイは進化し、同時にアパッチ等に代表されるブレイクビーツは、B-BOY の B として提示されていく。

 では、詩人にもブレイクビーツの概念があって良いのではないか?読みやすいブレイクは無いだろうか?
ここでは、繋ぐや、踊るではなく、感じるブレイクビーツに着目する。今回使用したブレイクは、いわゆるネタである。ネタとは、主にサンプリングソースとして機能したり、効果的に DJ、MC を演出する素材を指す。それらを、意図時に作品に落とし込まれた音材(フリーとして再利用を促した素材)を使用する。

 ヒップホップゲームにおいて、ネタは隠すという観点から、とあるアンダーグラウンドのボーナスビートを土台に「4 Poetry Artist」(詩人達のブレイクビーツ)を完成させたので、聴いてみて欲しい。
 2000年代前後は「対極」の縮図であった、ハードコアヒップホップと、ポエトリーカルチャー。
我々は20年の時を超えて、ここに言葉を繋げる。


*1 SSWS…新宿スポークンワーズ・スラム(SSWS)の略。詩人やラッパーたちが言葉によるパフォーマンスで対決していた。


第二回目:「己がサンプリングされよ」(マサキオンザマイク理論)


『Initial $』

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