響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い- 拡充版 03
2025年に刊行したミュージックガイドブック『響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い-』(羊目舎)はスポークンワードの入門的一冊を目指して制作されました。
本稿はそのスポークンワードガイドをさらに充実させるブースターテキストのようなコラムとなります。入門的・平均的であることを意識した『響きあう詩人たち』の枠組みを外して、さらに自由に書いていきます。
意図を汲んで、掲載してくださった auly mosquito の笹谷創さんに感謝しております。
ウェブという特性を活かして、楽曲の URL がリンクできる作品は貼りつけてありますので、ぜひ聴きながらコラムを楽しんでください。
澤口たまみ、石澤由松
グスコーブドリの伝記 vol.1 / THE LAST MESSAGE
T&K Quattro MUSIC / NONE? / CD / 2023
宮澤賢治の朗誦伴奏の活動を続ける澤口&石澤による「グスコーブドリの伝記」全編朗読。「vol.1」が沼ばたけ、つまりはグスコーブドリが都会へ出てゆくまで、「THE LAST MESSAGE」でそれ以降が語られる。前作『小岩井農場』の方が音のリズムに乗せて朗誦しており、本作では音を意識しながらも語り聞かせるような朗読という印象だ。前半は「沼ばたけ」の農耕、後半は「クーボー大博士」のユーモア溢れる講義のシーンが魅力的。
シンガーズハイ
SINGER’S HIGH
Noisy / NOIS-008 / CD / 2023
内山ショートのソロプロジェクトとして立ち上がり、アルバム発売当時は四名体制のバンドとして活動している。ハイトーンボイスと荒々しいサウンドが魅力の彼らによる七枚目のシングル「Kid」は大衆的ロックバンドへのアンチソングでありながらも、その咆哮は自分たちを常に初期衝動に立ち返らせるような歌詞であり、かつスポークンワード調で語られる捨て身の雰囲気に惹かれる。
青春カフェさくらい
強気vs弱気
SELF-RELEASED / UNKNOWN / 2CD / 2023
ポエトリーリーディングやポエトリースラムの現場でご一緒する機会のあった青春カフェさくらいは、弾き語りのミュージシャンであり、お笑い芸人としても活動していた。この二枚組のアルバムは2023年12月9日に東京池袋のタカイトウというライブハウスでの単独公演を収録している。人を笑わせることと感動させることの両立をなそうとする気概の見える作品で、演奏や歌の中に、軽妙な語りがすいすい入り込んでくるライブ感が心地よく、当日のライブに参加できなかった私にも新鮮な作品で、トーキングブルースであるとは言い切れないが、トーキングブルースを感じる進化した語り音楽が詰め込まれたアルバムだ。
なのるなもない×YAMAAN
水月
studio melhentrips / SMT-001 / CD / 2023
TempleATSで交友を続けてきたなのるなもないとYAMAANによる幻想と美しさに満ちた八曲入りフルアルバム。なのるなもないのアルバム単位でのリリースは2013年のセカンドソロアルバム『アカシャの唇』(FLY N’ SPIN RECORDS)以来。ヒップホップらしいゴリゴリのビートではなく、自然を思わせるようなアンビエントやヒーリング系のトラックの中を自由に行き来して木霊を感じさせるなのるなもないの歌とラップ。ラップスキルが高すぎることはもう言うまでもないが、ヒップホップ史における【ラップと歌の融合】という問題について、降神の二名はもっと研究されてもよい気がする。五曲目「Morse Code」にはコーラスでtotoが参加しているポエトリーリーディングで、声で心を包むような優しい詩に溢れている。本作はなのるなもないの自主レーベル作品の記念すべき第一弾である。本レーベルからは岡本学志のフルアルバム、そして SUIKA の別形態ユニット・CuT SUIKA with OBATA JIN and SHOJI WATARU のシングルもリリースされ、アルバムの発売が待たれている(2025年現在)。
※上記は本作の映像ではございません。古川日出男と向井秀徳、坂田明によるセッション映像になります。
古川日出男、向井秀徳
A面/B面~Conversation & Music
YANAI INITIATIVE / Y0001 / LP / 2023
本作についてはまず柳井イニシアティブ(YANAI INITIATIVE)について説明が必要だ。YANAI INITIATIVE は柳井正(株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)の寄付により日本文化研究の伝承と伝播を目的として2014年に発足した早稲田大学とカルフォルニア大学ロサンゼルス校との共同連携事業のことである。2020年より体制が強化され、これまでに【レコードプロジェクト】と【文学ビデオ】が実績として残されている。本作は【レコードプロジェクト】の第一弾としてリリースされた。本作は2022年10月1日に早稲田大学26号館地下多目的講義室で録音された一発録音のライブ音源であり、ミキシング&マスタリングは山根アツシが携わっている。ディスクカッティング旋盤という機器により、その場でレコードに収録・制作された本作には、古川と向井による即興的セッションと語りが内包されており、興味深い記録となっている。
本田Q
ぐうのね
SELF-RELEASED / NONE / DIGITAL / 2023
WAQWADOM のメンバーとして伝説的な活動を残してきた MC・本田Q による EP 作品。2011年リリースのファーストアルバム『くしゃみ』と大きな期待の末にドロップされたセカンド『ことほぎ』の中間に位置する本作は日本の伝統芸能的語り/節と培われてきた日本語ラップの見事なハイブリッドである。「クサマクラ」や「ディスニモマケズ」など全体に文学への愛好を散らしつつ、「農民芸術概論・序論」は宮澤賢治の論文をスポークンワードで表現せしめた佳品である。
ShaLon
Glimmer in the room
SELF-RELEASED / NONE / DIGITAL / 2024
ポエトリーラッパー・ShaLonによるファーストアルバム。はじめはミニアルバムや EP を構想していたようだが、どんどんと創造欲が溢れ出た末にドロップされたフルアルバムは、儚くも美しい幻想的なサウンドや世界観と寄り添うような声音に潜む現実の喜怒哀楽をたしかにリスナーへと届けてくれる。スポークンワードとラップのみならず、歌うような調子も巧みにスイッチングする器用さが楽曲の軽やかさになっている。アーティストとしての覚悟を感じる「プラネタリウムの守り人」や惜別あるいは喪失など、それらの傷みを抱えながら生きてゆくための「スーサイドノート」など日々の生活に起きる感情に身を寄せる楽曲群が人々へ寄り添う。「追憶」と「STARGAZER」には葉宮よしのが客演参加しており、美しいバックコーラスやポエトリーリーディングで彼の世界に更なる彩りを添えている。
ずっと真夜中でいいのに。
形藻土
UNIVERSAL MUSIC / UPCH-29504 / 4CD / 2026
ヨルシカ、YOASOBI と共に「夜好性」と総称され、2020年代を代表する音楽プロジェクトの一組であるずっと真夜中でいいのに。がリリースした四枚目のアルバム。通常盤、数量限定のフィギア盤、そしてインスト盤と2枚組ライブ CD + ステッカーが付いた初回限定魔導書盤がある(本書の表記は魔導書盤に当たる)。冒頭の「地球存在しない説」はアルバムへ誘う入り口として一分程度の中にポエトリーリーディングと歌を巧みに組み込んでいる。また28枚目のシングル曲でもあった「メディアノーチェ」にも間奏の語りかけるようなポエトリーリーディングがあり、生と死の煩悶をインターネットと現代のポップカルチャーに見事に融合させた一曲だ。その他、話題になった楽曲群が詰め込まれた夜に聴きたい一枚。
知花タイ
止まらない秒針の内側で
SELF-RELEASED / NONE / DIGITAL / 2026
沖縄県発、12歳の頃から活動している知花はリラックスできるような開放的な音楽性の中に語られる詩情が心に染むようなミュージシャンである。アルバム『はなたば』リリース後のシングル曲となる本作は14分に渡る大作だ。ヒップホップ(特筆して RIP SLYME の楽曲は優れたリミックスを数々発表している)への敬愛が、知花のサウンドに軽やかにのっており、語られる詩世界は小説のように瞬間瞬間のイメージがリスナーの脳内にパッパッと明滅するような心地よさがある。Dragon Ash「陽はまたのぼりくりかえす」や小林大吾が好きな人にもオススメの一曲。
アルバスの栞
Her
SELF-RELEASED / NONE / DIGITAL / 2026
2025年にシングル『彼女のために』をリリースしたスリーピースバンド Her による五曲入りミニアルバム。岩手県盛岡市を中心に活動する Her は、作詞&ボーカル&ギターのいまかわとベースの Ray、ドラムの sho によって構成されている。静謐と轟音の振れ幅はそのままリスナーの感情をエモーショナルに揺さぶってくる。二曲目の「liberator」はアルバムの中でも特異な楽曲であり、骨太な楽曲の中にスポークンワードとデスボイスが絡み合う比較的短い一曲でマスロックの色合いを感じる。気に入られた方にはツーピースバンドの黄金虫も注目してみてもらいたい。
今回のコラムのようなスポークンワード作品を紹介した『響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い-』(羊目舎)は下記オンラインストアにて販売しております。ぜひ気になる方は入手してみてください。
《羊目舎 Online Store URL》
https://hitsuji3poem.base.shop
(文章:遠藤ヒツジ)
前編:響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い- 拡充版 02

