響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い- 拡充版 06
2025年に刊行したミュージックガイドブック『響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い-』(羊目舎)はスポークンワードの入門的一冊を目指して制作されました。
本稿はそのスポークンワードガイドをさらに充実させるブースターテキストのようなコラムとなります。入門的・平均的であることを意識した『響きあう詩人たち』の枠組みを外して、さらに自由に書いていきます。
意図を汲んで、掲載してくださった auly mosquito の笹谷創さんに感謝しております。
ウェブという特性を活かして、楽曲の URL がリンクできる作品は貼りつけてありますので、ぜひ聴きながらコラムを楽しんでください。
Gotch
Stay Inside
only in dreams / ODDS-010 / DIGITAL / 2020
このシングルは音楽プロダクション origami PRODUCTIONS が立ち上げた【origami Home Sessions】の mabanua と Shingo Suzuki のトラックが活用されている。上記のセッションプロジェクトは新型コロナウィルスによってライブ収益が見込めなくなったアーティストに向け、無償で楽曲データ提供・コラポレーションしてリリースされた曲の収益も提供していた(2025年執筆現在は終了し収益はアーティストへ還元されている)。「Stay Inside」は容易に出かけられなくなった憂鬱やもどかしさを抱えながら歌う希望に満ちている。「Mirai Mirai」では古川日出男の著書『ミライミライ』(新潮社)のテキストを採用した Gotch のポエトリーリーディングが冴えわたる。淡々とした朗読を通底する旋律が伴奏する音に乗って、過去と現在を突き抜ける未来への静かな咆哮。
挫・人間
ブラクラ
redrec/sputniklab.inc / RCSP-0100〜0101 / CD+DVD / 2020
オフィシャルサイトにも記載があるとおり、ナゴムレコード系を思わせるサウンドとネットスラングやミームの雰囲気をふんだんに漂わせた一種の緩さ、変調子に対峙するボーカルが特徴の挫・人間による五枚目のアルバム。「ソモサンセッパ」は自己と会話し続けるエミネムとマーシャル・マザーズみたいな一曲だが、ひたすらにあっけらかんとしていて、脱力して笑ってしまえる音楽性が楽しい。ナゴムとともにブリーフ&トランクスも思い出す。
志人/客人
FM89.2海賊怪電波ラヂヲ放送音源集「ソ・コ・ハ・カ」
Temple ATS / CD_SH190 / 2CD+BOOK / 2020
林慎一郎が作劇と演出を務めた劇「ジャンクション」にナビゲーターとして出演した志人/客人による劇中のラジオ放送音源集が二枚組の CD でリリース。戯曲と文字起こしされた「ジャンクション」の書籍がセットとなった豪華な作品だ。実際に音源が使用された劇は観る機会を持てなかったのだが、そのタイトルに相応しく、四つのグループに分かれて、観客も遊歩しながら劇を体験するという想像力を搔き立てられる内容であったという。都市との交流、そしてラジオから響くスポークンワードの声を想像しながら、空想のジャンクションを楽しめる充実のアルバムだ。
吉増剛造×空間現代
背 [Reverse]
外 / UNKNOWN / CASSETTE / 2020
数々の現代音楽家やジャズミュージシャンとコラボレーションを行なってきた吉増剛造。ポストロックの中においても、あまりに特異な音楽の構築と、もはや歌ではなく発語という形容が正しいとさえ思える野口のボイスが光る空間現代。2019年11月に京都・外(空間現代の音楽スタジオ)にて二日間に渡って開催された「背」のプレ・パフォーマンス・ライブが吉増と空間現代を繋いだ始まりであった。二日ともに渡って行なわれた即興性の高いパフォーマンスはいずれも三十分弱に渡り、空間現代のノイジーなサウンドと吉増の絶叫が見事に呼応している。空間現代のまるで地面から突き出してくるような鋭角なサウンドはライブで一層のそのドライブ感を増す。過去に劇団・地点がマヤコフスキーの戯曲に空間現代をコラボレーションさせたことがあるが、詩的で饒舌なる言語に対して空間現代のバンドサウンドは親和性が高いと見える。
iidabii feat.Buts
地獄に生まれたあなたへ
Gesellschaft Records. / UNKNOWN / CD / 2021
詩人 iidabii、そしてトラックメイカー Buts がタッグを組み、世間へと、日本へと、世界へと、自らへと、そして私たちへと叫びをあげた一作。二人は家族から信仰を強制的に押しつけられて信教の自由を奪われた宗教二世である。全曲に注目せざるをえない、あまりにも深く痛みのある一枚だが、二人は共感や同情だけでなく、一人一人の眼差しを変えるために音を聴き、これを見よと訴えかける。低レベルのノーマルモンスターが宝物になる「きのこマン」、神様のいない世界を歌わなければならないほどに神様のいる世界が辛かったことを叫ぶ「神様のいない世界をください」など、多くの人に聴いてもらいたい。ジャケット・アートワークは自身も宗教二世の漫画家である菊池真理子。
UVERworld
30
gr8!records / SRCL-12031〜2 / CD+Blu-ray / 2021
もはや国民的バンドといえるまでにのし上がった UVERworld の11枚目のフルアルバム。私がちょうど高校時代にデビューを果たしたバンドの勢いとカッコよさは軽音楽部でもよくコピーされていたし、私もデビューアルバムを友人に借りて聴いた記憶がある。この時代の、と括ってしまうのも乱暴だが Aqua Timez や凛として時雨など印象的なバンドが現れ、今なお活動を続けていることに小さな勇気をもらう。と言いながら、UVERworld が本作のリード曲「EN」や「One stroke for freedom」などで積極的にポエトリーリーディングを取り入れていることは知らなかった。ミクスチャーロックバンドの軸がこのバンドの魅力であったし、自らを表現し続けるボーカル・TAKUYA∞ の飽くなき姿勢はやっぱりカッコいい。力強い楽曲群が打ち揃う一枚。

大島健夫
TOKYO SPOKEN YOUR WORD Vol.2
MOKVA SOUNDS / NONE / DIGITAL / 2021
『大蛇をください』、『最初に君と出会ったのは、』に続く大島の朗読作品に当たる本作は、ワントラックのアルバムである。二十二分にも及ぶ朗読詩「24時間スーパーの恋」が収録されている。六十四歳の冷凍倉庫で働く男の話が徐々に捻じれ異相へと導かれてゆく。大島の詩は奇譚と呼べるような物語性が特色の一つに挙げられると思われ、次々と物語の主体が変わるトリックスターのような印象をいつも抱かせてくれる。ラストの詩行までぐいぐい引き込まれる必聴の一作だ。

ClariUtah from GAKUSAI-Lab,
find us.
GAKUSAI-Lab. / UNKNOWN / DIGITAL / 2026
自身の主宰する団体 GAKUSAI-Lab. より四枚のアルバムが同時リリースされた。このアルバムはその内の一枚であり、CLARI と桑井ゆたによるユニット作であり、詩人の姿を映した一作となっている。対となるアルバムとして板垣雄一朗とのユニット・音楽研究所によるアルバムもリリースされている。アルバム全体が海を思わせるトーンに調えられており、意図的かは別として一枚が繋がる連作的な印象を受ける。同団体に所属するアステリズムと君嶋復活祭も参加しており、力強さと艶によってアルバムを色濃く彩っている。応答がテーマとなっているであろう本作は CLARI の繰り返し歌ってきた君と僕という対立性に桑井ゆたの声が見事に折り重なっている。冒頭の「メーデー」から最後の「うんめい / やくそく」まで一貫して美しく、揺蕩うような感覚に浸れるアルバムだ。

CLARI / 平岡眩 from GAKUSAI-Lab,
生存への意思
GAKUSAI-Lab. / UNKNOWN / DIGITAL / 2026
前項でも記した四枚のアルバムを同時リリースしたうちの一枚である。CLARIの詩人の姿を映した一作となっている。対となるアルバムとして歌う姿を収録したアルバムもある。CLARI のライブを聴いているとピアノ&ポエトリーのイメージが強く残る。もちろん本作でも「輪廻」や「生きなきゃ」で、その魅力は遺憾なく発揮されているのだが、それだけに留まらず、様々な声と音の技術や感性が光っている。特筆してブラックホールの底の底から響くような声をバックに明瞭な声で現在地点から語りかける「永遠」などは印象深い。
highball-girl
kikoeru
風神雷神や。 / UNKNOWN / DIGITAL / 2026
詩×音楽のユニット popi/jective のメンバーとして、そして詩人として旺盛かつ質の高い活動を続ける佐藤yuupopicによる highball-girl 名義でのフルアルバム。全十六曲・五十七分にも及ぶ詩と声の世界は、聴くものの日常をそっと静かに、けれども確かに深みへと入らせて、異化を起こす。三部に分かれた「報」と「虹」という楽曲群から想起される宮沢賢治「報告」、popi/jective の楽曲として公開した「ephemera」の別バージョン、日本詩人クラブ主催の第10回「新しい詩の声」賞優秀賞にも輝いた「永遠の静物 _Eternal Still Life」、松戸のポエトリースラムで聴いて印象的だった「GO→REM」など現時点でのベスト盤と言えるような充実のアルバムであると言える。ゲストに桑原滝弥、juvenile電化製品、大覚アキラ、ながし、夏野氷、矢野信一郎が参加しており、音楽面では全面的に笹谷創も協力している。余話だが筆者が笹谷創スタジオでレコーディングがあった日にこのアルバムの一部レコーディングが重なり、その一部を聴かせていただいた。作品をよりよいものにしようとする熱量とユニットならではの呼吸がライブではない場所で感じられて嬉しかったことを個人的な記録として残しておく。
今回のコラムのようなスポークンワード作品を紹介した『響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い-』(羊目舎)は下記オンラインストアにて販売しております。ぜひ気になる方は入手してみてください。
《羊目舎 Online Store URL》
https://hitsuji3poem.base.shop
(文章:遠藤ヒツジ)
前編:響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い- 拡充版 05
『光よりおそい散歩』

