響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い- 拡充版 04
2025年に刊行したミュージックガイドブック『響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い-』(羊目舎)はスポークンワードの入門的一冊を目指して制作されました。
本稿はそのスポークンワードガイドをさらに充実させるブースターテキストのようなコラムとなります。入門的・平均的であることを意識した『響きあう詩人たち』の枠組みを外して、さらに自由に書いていきます。
意図を汲んで、掲載してくださった auly mosquito の笹谷創さんに感謝しております。
ウェブという特性を活かして、楽曲の URL がリンクできる作品は貼りつけてありますので、ぜひ聴きながらコラムを楽しんでください。
yatchi
Night Cultivation
SELF-RELEASED / YTCH-002 / CD / 2021
京都発の3ピースバンド・ムーズムズの鍵盤担当である yatchi によるセカンドアルバム。ピアノの音色を主軸にしながら展開される音楽は雨の日のような静謐と優しさに満ちている。バンドの緩やかに心地よいグルーヴ感とはまったく別方向のサウンドがこのアーティストの魅力として体感できる。本作のラストを飾る「will」はパーカッション奏者の角銅真実が呟くような朗読が印象的だ。愛猫の角銅きりんも参加している。
URAOCB×大久保真由
ONE NIGHT PROUD
SELF-RELEASED? / UNKNOWN / CD / 2022
同年8月10日に開催されたスポークンワードの URAOCB と鍵盤奏者の大久保真由によるセッションライブの模様が全編収録されている。ライブ全体が完全即興であったという本作は、お互いの経験と信頼が裏打ちされており、URAOCB が社会へと問いかける力強いリリックと、その問いかけを、言葉の感情をブーストさせる大久保真由の連弾がカッコいい。大久保真由は山田アタリ名義でも活動しており、スポークンワード/ポエトリーリーディング表現でも才能を発揮させている。
SuiseiNoboAz
GHOST IN THE MACHINE DRUM
SuiseiNorecoRd / SNRD-002 / CD / 2022
曖昧な感覚なのだが、常に音楽というジャンルに一石を投じるようなアーティストがいて、私の中でそのようなアーティストは青葉市子だったり、LEO今井だったり、Analogfish だったり、そして SuiseiNoboAz だったりする。前作『3020』の完成度をいかに越えるかという点が注目されたと思われる本作だが、見事に越えてみせるというか、延伸させたという感じがある。石原正晴が「3020」で叩きつけた力強いスポークンワードは肩の力が少し抜けたようでラップも思わせる歌唱へと移行している。アルバムテーマに一貫した GHOST と踊っているような柔らかさと底の知れなさという点では前作よりも一層聴きこむことで深みに嵌るようなアルバムに仕上がっている。全曲オススメしたいのだが、アルバム同名タイトルのリードトラックと「亡霊に遭ひし事」は絶対聴いてほしい。
D2021
D-Composition
SELF-RELEASED / NONE / DIGITAL / 2022
D2021は坂本龍一と Gotch が中心となったプロジェクト。東日本大震災から十年という節目に多様なDをテーマとして2021年3月13日と14日に日比谷公園にて開催されたイベントの総称でもある。「D-Composition MING」ではアジカンの Gotch と哲学者の永井玲衣がポエトリーリーディングで参加。続く「D-Composition Zero F」では古川日出男が自身の震災記でもある『馬たちよ、それでも光は無垢で』と『ゼロエフ』を中心にポエトリーリーディングをしている。Dに呼応した様々なミュージシャン、職能たちが関わり、震災経験を抱えながら乗り越える一つの回答を提示している。
popi/jective
CASSET TAPE FAN CLUB
風神雷神や。 / FRY-002 / CASSETTE / 2022
2021年リリースのミニアルバム『popi/jective』に続く音源はカセットテープ。一本一本手作業で制作された本作は音の温かみを内包しながら、詩的言語の世界へ没入させてくれる。A面はトークも含めた全五曲のスタジオ録音。「クライシェの星」の別 Edit が収録されていて聴き比べる喜びもある。B面は詩人の葛原りょうが経営する工房ムジカでの無観客ライブ録音。コロナ禍に開催されたイベントで結成したユニットの記録を無観客という空気とともに刻みつけるという点でも価値ある一作である。ちなみに本作はセカンドアルバムではないらしく、メンバーが買い漁ったブートレグの思い出を元に Extra edition_001 と銘打っているという。
吉増剛造×空間現代
2.12.17
OTOROKU / NONE / DIGITAL / 2022
本作はロンドンにあるCAFE OTOというライブハウスで、2017年に催された吉増剛造と空間現代によるパフォーマンスの音源である。CAFE OTO による配信プロジェクト【OTOROKU】の一環としてリリースされたもので、Bandcamp を通じて購入できた作品だが2025年現在では販売ページがなくなってしまっているようだ。2020年にリリースされた『背 [Reverse]』の項目で、吉増と空間現代のセッションの始まりと記したが、正確にはそれより以前にも公演実績があったことが分かる。本楽曲はワントラック四十分のライブ音源で、吉増の代表作「絵馬、a thousand steps and more」が空間現代とのコラボで聴ける幸福を味わえる。
amazarashi
永遠市
SONY MUSIC ASSOCIATED RECORDS / AICL4463 / CD+Blu-Ray / 2023
amazarashi の七枚目のアルバム。アレクサンドル・コルパコフのSF小説「宇宙の漂泊者」という作品に現れる【永遠市】に感応して冠されたアルバムタイトルは2022年に体調不良で公演中止を余儀なくされた秋田ひろむが立ち上がっていく精神力を感じさせる。タイアップされた「カシオピア係留所」、「アンチノミー」、「スワイプ」などが収録される充実の一枚であると同時に、六分間による充実のポエトリーリーディング「ごめんねオデッセイ」が美しく哀しい。泥濘をもがくような焦燥と永遠を信じたくなるような純粋性、そして今の社会へ問いかける言葉が巧みに折り合わさる amazarashi の魅力が凝縮された一枚。完全限定生産盤の映像特典として「amazarashi Acoustic Live『騒々しい無人』at TOKYO GARDEN THEATER 2023.06.08」が全編収録されている。
伊藤竣泰
いい試合
SELF-RELEASED / NONE / DIGITAL / 2023
伊藤竣泰のファーストアルバム。次作『ポイエティーク』は彼の世界観を幅広く体験できるアルバムだが、本作はギミックアルバムというだけあり、一切ストレートを投げない投手と喩えられるような、歪んだ芯を通すアルバムと言える。コンセプトは明確で、世間のトピックを対立させて、その中に湧き上がる何とも言えないエモをいい試合という言葉で締めくくる。スキット的に用いられそうな題材を敢えて一つにまとめてしまう胆力に驚く。二つの喩えの距離感を掴むのがかなり絶妙なので、テキストとしてかなりテクニカルな点は常に評価されてもいい作品集だ。全編のトラックを手掛けるのは笹谷創。あとジャケットのアートワークに大田区蒲田のタイヤ公園に設置されたタイヤロボットの遊具が採用されているのが個人的にツボ。
DeVoche a.k.a. monyop
無声慟哭 -Silent Wailing-
React Explore Creation Records / NONE / DIGITAL / 2024
AI と DAW を用いて音楽表現を続けるミュージシャンによるポエトリーリーディング EP。AIに詩の朗読をさせて音楽作品としてパッケージングするという試みであり、詩は宮澤賢治「無声慟哭」に影響を受けたものを活用し、ボイスは女性の柔らかい声が採用され、バックに広がるアンビエント/ヒーリングな音楽が詩世界を深く彩っている。生成 AI でのポエトリーリーディング的な読み上げ(音読的ではなく朗読的な読み上げ)は結構難しいのだが、DeVoche は見事に楽曲作品として昇華させている。
SEMENTOS
桜
Shore&Woods Recordings / SAWR-024 / CD / 2026
ハードあるいはエモロックのテイストを骨太なサウンドとしながら、抒情をパワフルに歌い上げる実力派バンド・SEMENTOS によるセカンドミニアルバム。本作を引っ提げてのライブをもって活動休止に入ることは非常に口惜しいが、休止前にここまでの作品が残せていることが心強い。日本語抒情ロックの系譜を受けついだミニアルバムのラスト「深く昇れ」はロキノン系メランコリックサウンドに乗って響く藤村JAPAN の詩情あふれるスポークンワードが最高の一曲だ。生活の変化を理由にした前向きな活動休止とのことで、活動再開を期待せずにはいられないバンドである。
今回のコラムのようなスポークンワード作品を紹介した『響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い-』(羊目舎)は下記オンラインストアにて販売しております。ぜひ気になる方は入手してみてください。
《羊目舎 Online Store URL》
https://hitsuji3poem.base.shop
(文章:遠藤ヒツジ)
前編:響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い- 拡充版 03

