響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い- 拡充版 07
2025年に刊行したミュージックガイドブック『響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い-』(羊目舎)はスポークンワードの入門的一冊を目指して制作されました。
本稿はそのスポークンワードガイドをさらに充実させるブースターテキストのようなコラムとなります。入門的・平均的であることを意識した『響きあう詩人たち』の枠組みを外して、さらに自由に書いていきます。
意図を汲んで、掲載してくださった auly mosquito の笹谷創さんに感謝しております。
ウェブという特性を活かして、楽曲の URL がリンクできる作品は貼りつけてありますので、ぜひ聴きながらコラムを楽しんでください。
hugvilla
hug
Cat&Bonito / CB-012 / CD / 2017
北海道札幌を中心に活動するエレクトロニカ・ミュージシャンによるファーストアルバム。五曲に加えてそれぞれのリミックスが加えられた全十曲入り。アーティスト名はアイルランド語で妄想を意味するというが、まさに本作は何かを考えこんでいるときの日常的思考の中に潜り込むような静かなサウンドスケープが魅力である。その音像の中で、紡がれる断片的な詩と声はパッと消えては不意に現れる記憶の炭酸のようなイメージを抱かせる。
尾崎リノ
NITE
atori records / TOUKA-002 / CD / 2018
2020~2023年まで Cody · Lee(李)にボーカル&アコースティックギターで在籍した尾崎リノのソロミニアルバム。アコギの音色に声が弾むように響いてくる。シンプルでそぎ落とされた表現であるゆえに、その多彩さには舌を巻くほどで、歌詞の一行一行がスポークンワードと歌を軽やかに行き来する。リードトラック「うみべの男の子」からラスト「月」まで心地よい散歩をしているような気分にさせてくれる爽やかな文学的一作。
椎名純平、タケウチカズタケ、小林大吾
THE 3
42-music records / K42M-1007 / CD / 2018
椎名、タケウチ、小林によるライブツアー【SoloSoloSoloTOUR summer 2018】に合わせて制作されたアルバム。イントロ・アウトロを除く六曲にはインスト版も併録。2020年解禁のサブスクでは本作のリードトラックともいえる「36 stratagems」に小林のヴァースが乗った完全版も加え、全十五曲で構成されている。小林大吾の洒脱で洗練されたスポークンワード、それを食らってしまいそうになる椎名純平の歌唱、そして、その二者を音で圧してしまいそうなタケウチのビート、三者三様にソロソロソロと睨みあっているような緊張と緩和のアルバムだ。当アルバムの制作についてだけでなく、読み物として面白すぎる小林のブログ【ムール貝博士言行録】もオススメ。
People In The Box
Kodomo Rengou
日本クラウン / CRCP-40540 / CD / 2018
バンドのデビュー十周年を記念してリリースされた六枚目のフルアルバム。しなやかな波多野裕文のボーカルと叙情的な歌詞、そしてポストロックらしさは失うことなく、情感や温かみを感じるサウンドが鳴り響いてくる。十曲目の「夜戦」は後半にスポークンワードが差し挟まれている。子供をモティーフにした純粋性と墜落の感覚を見事な詩的世界に落とし込んでおり、抽象と具象の淡いを巧みに描いている。

そにっくなーす
まんじゅう食べ落ち着く
UNKNOWN / UNKNOWN / CD / 2019
ZGRを主宰するマサキオンザマイクのレコーディングによるシングル盤。「NOT TAKING PASSENGERS」、「カニバリズムのための解剖学」、「まんじゅう食べ落ち着く」の三曲入り。毒を漏らすと書いて【漏毒】を標榜している彼女の怪しい声音がばっちりと合った「カニバリズムのための解剖学」はそにっくの声に合わせて合成音声的なボイスが追従しており、モキュメンタリー風の良さがある。そのあとに続く「まんじゅう食べ落ち着く」も毒のある笑いが最高だ。一枚一枚、盤面にアルバムタイトルが手書きされており、手売りの質感が嬉しくなる一枚。
Cody・Lee (李)
生活のニュース
sakuramachi records / CODY-001 / CD / 2020
尾崎リノが正式に加入した後、自主レーベルからリリースされた1stフルアルバム(注:尾崎は2023年に脱退)。高橋響との男女ツインボーカルによる歌詞の掛け合い、演奏隊であるメンバーとのグルーヴ感がたまらない一枚だ。「drizzle」や「東京」などは2020 ver として収録されている。この初期形の爽やかな都市の群像を描いている楽曲群にもスポークンワードが光っている。本作にも収録されている「我愛你」のMVが日本国内外でヒットし、メジャーデビューへの道を邁進していく。2021年にリリースされたシングル『異星人と熱帯夜』もオススメ(筆者はこの曲で Cody・Lee (李)を知った)。本作が気になった人には尾崎リノのソロ作、また音楽的な面白さという観点から Snu-pay Pants も併せて聴いてみてほしい。
あっすん
あなたとわたし
LOW HIGH WHO? STUDIO / NONE / DIGITAL / 2024
クリエイティブなヒップホップチーム・castella park を主宰するラッパー・あっすんがLHW?からリリースした EP。Yuji Otani、Phizfifteen が手掛けるビートが、ラップやポエトリーリーディングの声とともに、リスナーの感情を深く遠いところまで運んでくれる。歯切れよく、かつ軽やかにノるラップで Everything’s Gonna Be Alright と歌いあげる「雨」、悩みや惑う気持ちを抱えながら、それでもなお会いたいと語りかけるリード曲「あなたへ」を含む四曲入り。これからの更なる活躍に期待したいアーティストだ。
TERRO TERRO
NEW DIARY
Austin Record / ARR-0043 / CD / 2024
変調子で暴れまくるサウンドが中毒になりそうなバンドによるフルアルバム。三上寛や町田康などとも共演経験を持つ彼らの楽曲はボーカル・及川の歌詞もユニークである。スポークンワードが際立つというよりも様々に七転八倒するサウンドと歌の最中に差し挟まるという感じであり、次の展開が読めないところも楽しい。「ヒトデ」や「泳ぐように透明」がスポークンワード調の楽曲として楽しめる。意外と筋肉少女帯や人間椅子、あぶらだこが好きな人にもハマりそうな不思議なバンドだ。
the bercedes menz
今宵の月のようだ
SELF-RELEASED / NONE / DIGITAL / 2025
ドラマーの yuto utsugi のバンド卒業に際し作られた本曲は、utsugi自身が作詞を担当している。自らが新しい道を歩みだすための一歩を鼓舞するような一曲でもあり、これから羽ばたくバンド自体への応援歌としても響いてくる。若き青春時代の別れを思わせるストレートな世界観に美しく響く詩情もたしかに映り込んでいる佳曲であろう。ハードコアJ-POPを標榜する the bercedes menz は、utsugi 卒業後に新たに yama を迎えスリーピースバンドとして VAP と契約し、メジャーデビューを果たす。2026年5月にはアルバム『weapons』をリリース。
Æther
Hours
SELF-RELEASED / NONE / DIGITAL / 2026
作詞作曲&ボーカルの Sad:9 と、作曲の Nekoj!ma によるスクリーム・エモと呼びたくなるようなユニットのドロップした 1stEP。五曲の内、「Ours/朝焼けに僕は」と「blue noise.」には u_end が参加し、見事なポエトリーリーディングとポエトリーラップを掛け合わせている。郷愁を掻き立てるイントロ、次第に厚みを増していくサウンド、澄んだ声とスクリームの高低差が聴者の心を激しく揺さぶってくる。Fear, and Loathing in Las Vegas や凛として時雨などを好むリスナーにはぜひ聴いてほしい。
今回のコラムのようなスポークンワード作品を紹介した『響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い-』(羊目舎)は下記オンラインストアにて販売しております。ぜひ気になる方は入手してみてください。
《羊目舎 Online Store URL》
https://hitsuji3poem.base.shop
(文章:遠藤ヒツジ)
前編:響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い- 拡充版 06
『光よりおそい散歩』

