第9話

閉店日のグルーヴ

※この記事一連の閉店日はコロナ前のものです

 自分は2017年4月に就職と共に埼玉の所沢に引っ越してきた。そして一年も経たない2017〜18年にかけての年末年始に、所沢駅東口駅ビル計画が動き出した。
 その情報を知ってから、ひっそり収集してた雑誌の最終号の「みんな今までありがとう」(タメ口感)と似てるものが、閉店日にもあるんじゃないかと考えた。あの最後だけ雑誌から編集者たちの肉声が初めて聞こえるような感じと似てるんじゃないかと。店側の肉声が聞こえるんじゃないかと。いやそりゃ「いらっしゃいませ」も肉声だけど。その店が一体何だったのかが空気として伝わるんじゃないか、と。最終日はその店にとっての総括なわけだ。

 閉店する店の中には、作業場にしてた行きつけの店もあれば、足を向けようともしなかった店もあった。行きつけの店に関しては、真っ先に「近いんだし最終日も行って見届けたい」という気持ちになったが、そうではない店のことをふと考えると、最終日だけ行って感謝の気持ちを頂くのはただのいいとこ取りな気もしたが、一見さんにも平等に「今までありがとう」をくれるのなら行きたい、という気持ちは抑えられなかった。近所のおじさん感覚で、のれんからちょこっと顔出して「お疲れ〜」と一声掛けて帰る程度で、「今までありがとう」を浴びにいった。

 

【なか卯 所沢駅前店】

2017年12月30日(木)14:00

今回が初来店だったので、特に特別な感傷はなく、朝方の来店だったので「午後2時のラストまで頑張れ」という気持ちで店を出た。年末で世の中自体が忙しない雰囲気の中、午後2時という合間な時間帯に閉店は、「年明けてしばらく気付かなかったけど、いつの間に閉店してた!?」的流れだ。

 

【マクドナルド 所沢駅東口店】

2018年1月8日(月)17:00

17年間営業していた中々の長寿店。今回のキャラバンでは頻繁に利用していた事もあり、一番思い入れがある店舗になる。
閉店まで残り30分になると関係者がちょこちょこ来店していた。
買い物はしないが、入り口に立つ店員にお礼だけ伝えるお客さんもいた。
最後店の入り口前に集まった十人弱の客に対して、店長から簡単な挨拶があった。
店員全員でドアの前に並んでたのは、スポーツの整列みたいだった。
関係性は不明だが反対口にある店舗ではなく、西武入間駅前店を「次回からこちらの店舗をご利用ください」と紹介していた。
ちなみに今回閉店した所沢駅東口店にいた一人の女の子は、その反対口にある店舗で今働いている。

 

【ファミリーマート 所沢駅前店】

2018年1月15日(月)9:00

スケジュールの関係で前日14日の夜に訪れた。
閉店一日前だが、所々一番上の棚のみ商品陳列になったりしていた。24時間営業故なのか、引き際が他の店とは違うなと感じた。客としては妙に急かされる。
一番マニュアル通りで客の事情より店の事情最優先で機械的な動きを見せていた。安心とまでは言わないけど、変にそわそわせずに使用出来るという利点はあるかも。

 

【ドトールコーヒーショップ 所沢駅東口店】

2018年1月15日(月)18:00

スケジュールの関係で前日に来店。そこそこ利用してきた店舗。反対口にも営業時間は二時間短いものの別店舗あり。
窓に貼ってある「閉店セール」が、明らかにドトールのものじゃなくて、百均で買ったやつみたいなスーパーの閉店のテイストだった。
前日だったので通常通りの客層と利用方法のままで、ただ変わらず満席状態が続くのにビル全体の改装のための閉店は、勿体無いなという気持ち。

 

【オリオン書房 所沢店】

2018年1月20日(木)21:00

マクドナルド程ではないが、それなりに通った店舗。
心無しかいつもより人が多かった。
飲食店よりも、書店の方が閉店間際まで自然に居座れるので、最後まで客がはけない。
飲食店最終日に友達とお喋りしながら最後の時を過ごすのと違い、皆喋らず店内をウロウロしながら時間を潰して最後の時を一人で堪能していた。
特筆すべき点としては、タオル首に引っ掛けた変な男が「もう閉店なんですかね?」って10分くらい前から店員客構わず聞きまくっていた。書店と変な人の組み合わせは、沸いてくる理由が分かるようで分からない。
閉店時間になり、客が全員店を出てから、再びドアを開けようとし「もう閉店なんですかね?」と変わらず質問していた。アイドルの握手会の最後を争う鍵締めを狙ってるのか知らないが、オタク気質の男なのかもしれない。

 

【中華料理 獅子 所沢ステーションビル店】

2018年2月18日(日)22:00

大将が常連家族を玄関外まで見送りに行ったり、会計時に店のママと握手してる客など常連さんの存在が目立っていた。
途中材料が切れかけて、用意できるメニューが少なくなっているアナウンスをしていたが、チェーン店にはあまり見ない光景だった。
店前に張り出される感謝御礼の弾幕は、今回の観察した店舗の中で一番きちんと作られていた。

 

【芳林堂書店 所沢駅ビル店】

2018年2月22日(木)23:00

BGM何も流れず、本当に静かに終わった。無音ってのもまた静かにそっと胸にしまっておこうと思わされる演出である。きっと普段のクローズよりも静かだっただろう。閉店30分前に行ったが、客も六人程度から増えることなく、店舗の広さに対して少なかった印象。
入り口前の感謝御礼の弾幕は、必殺「A4普通紙に一文字ずつプリント(フチあり)」。
入り口に設置された「思い出ノート」をぱらぱら読んでいると、常連と思われるおじさんに話し掛けられた。東口のオリオン書房も一ヶ月前に閉店し、ここも無くなるとなると、徒歩10分のイオンの中の書店に行かないといけないから不便だよね、とこの店舗を普段使っていなかったものでも辛うじて話しを合わせられる話題だったので、愛想良く「そうですよね〜」と返した。
帰り際、ビル取り壊しに伴い、ドアが開いたまま運転停止したエレベーターが怖かった。

 

【ミスタードーナッツ 所沢駅西口ショップ】

2018年2月23日(金)23:00

若干セールもしてて、持ち帰り含め客の出入りが激しかった。店員達が仲良さげに騒がしい雰囲気で働いていた。そわそわとハイテンションを兼ね備えた謎の労働モチベーションだった。
最終日という理由での利用は、店内利用よりお持ち帰りが圧倒的に多かった。
店内利用の客に関しては、今日閉店なんだって意識がバラバラだなと思った。ある程度店内の客の数が多いと、最終日なんて全く関係なしに利用してるなって明らかな人が存在してくる。
閉店時間を迎え、次々と客が店を出るようになると、一つ一つの席に店員が来て「余っちゃったのでどうぞ!」とドーナツ五個セット配ってくれた。

 

【スターバックスコーヒー 所沢ステーションビル店】

2018年2月25日(日)23:00

反対口に新設されるグランエミオ店へ移転という形だったのもあり、今回の中では一番閉店のもの寂しさが感じられなかった。
関係者が多く来店していたが、偉い人ではなく元バイトや他店のバイトレベルがほとんどで、サークルのOB会っぽさもあった。OB的立ち位置の絶妙なスカした要素の入った人達がわらわら集まると、寂しげな雰囲気はないが、かといって活気には溢れていない不思議な人口密度を体感できることが分かった。
店員が接客の合間に、客として来店した関係者とタメ口で話してるのをみた時に感じる疎外感のレベルを超えた何かを感じた。
ミスドと比べると、通常通り作業場として使ってる人は気持ち少なかった印象。

 

 

地域メディア「所沢なび」に寄稿してるイラストレーターが所沢をスケッチしたクロッキー帳がレジ付近に展示されていた。

 

【証明写真】

2018年2月25日(日)21:00

スターバックスの最終日と被っていたので、ついでに撮ったがこれといって最後だから何か寂しさがあるわけではなかった。そもそも証明写真機は常に孤独だ。
機械がこの時刻に回収されるわけではなく、ただ係員が電源をオフにすることが大方予想されたので、特に見届けず終了時刻の21時にはスタバにいた。最終日に撮ったからといって、写真の自分達の表情に哀愁はなかった。何より当時の連れと二人で証明写真を撮る意味は分からなかった。

 

【閉店してからの世界】

 2018年2月をもって所沢駅東口駅ビルは、全ての店舗が閉店しその大半が更地になった。
 その9ヶ月後の同年11月、駅ビルのリニューアルオープンの為の工事が始まった。そこで自分はその工事現場の様子をInstagramに逐一投稿することを決めた。閉店した仲間達の来る開店日のために。
 そして約2年間の工事の末、2020年9月頭についに駅ビルがリニューアルオープンする。帰ってきた仲間もいれば姿を消した仲間もいるだろう。だがそれら全てを受け入れたい。温かく開店を見届けたい。

 今回、この閉店ー工事ー開店という一連のサーガを楽しんで貰えるよう以下の三段階でお届けする。

・閉店時の記録をこの記事で
・工事〜オープンまでの記録を下記記載のInstagramの今日までの投稿で
・今後開店日の様子やその後の店舗の記録を現在進行形で同Instagramへの投稿で

 また開店ラッシュが落ち着いた頃、開店日のグルーヴについてもこのコラムで書きたいと思う。
ではInstagramで会いましょう。

工事現場ー開店の記録は
こちらから

【記録係】
伊藤晋毅


『観察庁24時』

第 8話:『おしゃべりわんこ/にゃんこ』
第10話:隣の席の会話

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