Dragon Chop

タイトル:睡蓮の池に垂らす蜘蛛の糸

※本人の楽曲を聴きながらインタビューを読めます

『リチャード・ドーキングス博士の「模倣子」という考えは、芸術家に対する救済なんだと思います』

3.好きなアーティスト、憧れのアーティストを教えて下さい

Dragon Chop:今ちょうどハマっているのが『リング』、『らせん』、『ループ』の作者の鈴木光司。そして矢野顕子。矢野顕子は昔からずっと聞いている。

「矢野顕子『さとがえるコンサート2020』」

Dragon Chop:後は漫画も好きです。松本大洋。しばらく松本大洋の本を買いまくってましたね。話が深いんですよ。少年が体験した精神世界を描いています。あとは手塚治虫も大好きです。

「松本大洋 原作:『ピンポン』ダイジェスト動画」

-映画も観られますか?

Dragon Chop:中学生の時にスプラッター映画にハマっていました。近所にビデオ屋があってそこで借りてきて友達と超観てましたね。ホラーコーナーにある作品を半分以上は観てましたね。合計すると100本以上は見てるから、かなりコアなスプラッター映画を中学生の時ぐらいから知っていました。「感想文を書け!」と言われたら喜んで書きます。

-スプラッター映画の中で印象に残っている作品はありますか?

Dragon Chop:スプラッター映画の中で一番クラったのは『Braindead』かな。『Braindead』の監督は Peter Jackson か。これがね、クソB級なんですよ。当時は”B級映画”という言葉もなくて。Peter Jackson はすごいですよ。肩がぶつかればちぎれる。「人間の身体はそんなに脆くねぇわ」とツッコミを入れたくなる、笑っちゃう。「そんな馬鹿な!」みたいな(笑)

-ユーモアですね(笑)

Peter Jackson はB級ホラー映画の入門としてありですよ。ちなみに Peter Jackson は『The Lord of the Rings』など色々と出世しています。

「『Braindead』 日本語字幕付き」

-B級ホラー映画はご自身の創作に影響を与えていますか?

Dragon Chop:そうですね。B級ホラー映画の楽しみ方って冷めているんですよ。「ゾンビ映画ね、ふふん…」と言いながら「ハハハッ!」と爆笑しているんですよ。その楽しみ方って性格が悪いわけです。それが前提にあって、冷めた大人ぶっている目線で他人をクスクス笑うみたいな。言い方が悪いですけど。

そういうシュールギャグというんですかね。Peter Jackson はその面白さを植え付けた人物の1人ではあります。

「人類の進化の過程っぽいポーズをとる Dragon Chop 氏」

-また Dragon Chop さんはメロディセンスが卓越していますが、メロディはどこから影響を受けていますか?

Dragon Chop:僕が先生と呼んでいる人がいます。『ファイナルファンタジー』の BGM をやっている、通称ノビヨ、植松伸夫。中学1年生ぐらいで初めて X をプレイしましたね。 スーファミの Ⅴ と Ⅵ も好きです。BGM がとても良くて…。弟と僕はノビヨの曲が超好きなんです。

そのノビヨのバトルとかのメロディが頭にこびりついちゃっているから、どことなくイントロもゲーム音っぽく、それも平成時代のゲームのカッコいい曲。それを Reggae でも応用していく。

個性を出したいと思っても、なかなかイントロが思いつかない。そんな中、僕はゲーム音を適用します。

-他にはどういう人に影響を受けていますか?

Dragon Chop:遺伝学者のリチャード・ドーキングス博士*7からもかなり影響を受けています。彼の『利己的な遺伝子』という著者があるんですけど、その中で彼は「ミーム」という言葉を発明したんですよ。その人が提唱しているのは、ダーウィンの進化論は不完全であって、進化論の補佐的な意味で DNA の遺伝子ともうひとつ受け継がれるものがあると。それが”外部からの情報を脳にため込む模倣子(ミーム)”です。つまり、影響のことですよね。人の脳に焼き付いて、その脳からまた別の脳へと伝播していくこと、文化的な進化を補佐する存在です。英語で遺伝子を「gene」と言います。それを補佐する意味で「meme」という名前をつけたんですよ。

石を水面に投げたらリング状に広がるように、その人の発信した情報が周りの人に影響を及ぼすと。そこで流行という現象が起きたりする。その流行という現象が起きることによって、ある一定の方向性が人間の進化に定められる。…というのが、外面からの遺伝ね。その考え方が、この世の流れの中で”引っ掛かる作品を創ろう”という僕のアーティスト魂と一致しています。つまり、ミームを残そうということです。

-ミームを残す、なるほどです。

そのリチャード・ドーキングス博士の「模倣子」という考えは、芸術家に対する救済なんだと思います。自分の遺伝子を残せなくて、悲しんでいる人がいたとしたら「いや、あなたの子供はいるんですよ。ミームという模倣子が散らばり100年経って死んだ後でも、あなたの存在は確かにあった。子孫たちに影響を及ぼしているんだよ」と言えるわけです。

すごいポジティブでいい意味だなと思って。そこに、リチャード・ドーキングス博士の人類に対する愛を感じたんです。彼は言い回しがポエトリーというか、多分…歌を書かせたら上手いだろうなって。比喩が面白いんですよ。若い頃は普通にテレビに出ていたり、千石先生*8みたいな感じだね。

リチャード・ドーキングス博士は僕の考えに大きな影響を与えた1人です。

-好きなアーティストのメンバー素敵ですね。

Dragon Chop:あと、坂本龍一は大好きですね。僕 YMO が大好きで、バンドをやり始めたきっかけは YMO です。20歳の時に YMO の DVD を友達の家で見て「なんじゃ、こりゃ」って。『東風』という曲なんですけど。

『東風』の79年の The Greek Theater*9 のライブで、偶然友達が再生していたんだよな。それを観て面食らって、それでキーボードをやり始めて、こうなったんです。…さっきから全然 Reggae 関係ないですね(笑)

「The Greek Theater での『東風』の演奏」

『地球上の物質は脈状に広がっていく性質を持つ』

4.盆栽の話を教えて下さい

-取材の事前に「盆栽と創作には世界の見え方に対する共通点がある」とおっしゃていましたが、その辺りのお話を伺えればです。盆栽をしていて気がついたことはありますか?

Dragon Chop:「盆栽をしていて気が付いたこと」…まず、地球上の生命は脈状に広がっていく。木も上に脈があって下に根っこの脈があります。血管、鉱石…クリスタルや雪の結晶もそうだけど、枝状に広がっていくでしょ。

そもそも、この世のものは増えていくものだと思うんですよ。増えて大きくなるというのが、この地球上の基本と思います。増えるといっても魔法みたいにポコンと増えるのではなく、お互いに寄せ集まって結晶になる。おそらく重力の影響だと思うんですが、合理的に増えて伸びていくとした場合、脈状の形が一番都合いいんですよね。”地球上の物質は脈状に広がっていく性質を持つこと”が盆栽をしていて分かりました。

-盆栽からそこまで…(笑)

Dragon Chop:盆栽は師匠に勧められて始めたんですけど、その以前から似たようなものに興味があって、自分は学生時代に家でサンゴを栽培していたんですよ。だから、生物飼育の知識はサンゴ育成の時点であったんですよ。海にいってきれいな海水を汲んだり、浄化生物だけを採取してみたり、中学時代からそういうのをやっていたんですよね。

高校卒業する時ぐらいまでずっと水槽をやっていたから、生物に関する知識は異常だったんですよね。3.11 の地震で水槽はなくなっちゃったので、あきらめてやっていなかったんですけど、24歳ぐらいの時に盆栽を知ってからは「水槽とこれは一緒だ」と思いながら盆栽をずっとやっています。

-海と陸の生物の育て方は似ているんですか?

Dragon Chop:もう、一緒ですね。まんま一緒です。特にサンゴだったから、サンゴは一応動物と言うけど、育て方は植物みたいなもので。その意味では、光合成の理屈を知っていれば盆栽はある程度入りやすいですね。

盆栽も音楽も、その仕組みをよく理解して、自分の好きなイメージを具現化するために、日々修行を重ねていく。それが Reggae なんですよ。僕がやろうとしていることは、きっと。

「Dragon Chop 氏の盆栽」


*7 リチャード・ドーキングス博士…1941年生まれ。エソロジーの研究でノーベル賞を受賞したニコ・ティンバーゲンの弟子。
*8 千石先生…千石 正一、日本の動物学者。TBSテレビの『わくわく動物ランド』や『どうぶつ奇想天外!』に出演していた。
*9 The Greek Theater…1931年にオープンしたロサンゼルスにある野外ステージ。古代ギリシャの建物をモチーフに作られた。


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