SHAKARA

タイトル:Old Songs

※ページ毎にご本人の作品をお聴きになれます

『Marvin Gaye が死ぬ前か何かのインタビューで「自分の作品が周りにどういう影響を与えるか考えない奴は、ミュージシャンじゃない」と言っていて』

3.ニューヨークでの生活について教えて下さい

-ニューヨークに行ったきっかけはありますか?

SHAKARA:大学で Reggae に捉われないイベントをやり始めた。その時々で知り合った友達、 Reggae シーン以外の人とも知り合って、色んな音楽がかかるイベントがやりたいと。そういうイベントを企画してやっていったんですが、自分の引き出しに限界を感じ始めました。

いままで Reggae しか聴いてこなかったから、他の音楽を聴いて影響を受け始めたものの、すごく小手先で聴いていると感じましたイベントも一生懸命やってみても、それ以上のものが自分の中で出てこない。

-ちゃんと自分に落とし込めていないのかもしれないですね。

SHAKARA:「やってみたい」だけでただやっていたと思います。だんだんと大人になってくると…、大人といってもクソ大学生でしたけど、周りからの評価ではないですが、「周りの人がどう思うか」も考え始めた。自分がやりたいだけではだめだと。

限界を感じてもっと根本的な勉強をしないとダメなんじゃないかと。それで、ニューヨークに行こうと思った。大学3年生までやって休学して2年間ニューヨークに行きました。

「ルームシェアしていた家の前にて Daisuke Kazaoka 氏と一枚」

-ニューヨークでの2年間はどうでしたか?

SHAKARA:とても楽しかったし、根本的なところを崩されました。

-どういう部分で日本との違いを感じましたか?

SHAKARA:そもそも音楽の向き合い方が違いましたね。音楽が浸透している。「居酒屋に飲みに行こうよ、ボーリングに行こうよ」の選択肢のひとつに「クラブに行こう、ライブに行こう」がある。街に音楽が溢れていて、路上のミュージシャンももっと多い。電車の中でイヤホンで歌っている奴もいましたね。

行ったばかりの時は「日本は音楽が全然流行ってないんだ」と思っていたんですけど、日本の人も音楽が好きだと思うしあまり違いはないのかなと今になっては思います。

-なるほどです。

SHAKARA:ニューヨークに行って2,3ヶ月ぐらいの時に Kendrick Lamar*14 が『DAMN.』という新しいアルバムを出して、街全体がそれに染まる。電車の中でスマホを見ている人をみると、若い女の子からおじさんまでみんなそのジャケット。

「Kendrick Lamar ‘DAMN. COLLECTORS EDITION.’ Album」

今はそういうのはないじゃないですか、それこそ「浜崎あゆみが新譜を出した」、あの熱量がずっと続いていて浸透している。そこは今の日本の状況とは違うと思います。

-ニューヨークでは、どういう過ごし方をされていたんですか?

SHAKARA:学校に行って、バーや日本食のレストランで働いて、ライブに行ってました。ニューヨーク以外の街でやっているライブの数を全部足しても、ニューヨークだけでやっているライブの数の方が多いらしいです。それこそジャズクラブが4,5軒あって、その時点で勝てないですよね。

-有名なところにも行かれましたか?

SHAKARA:BLUE NOTE に何回も行きました。ジャマイカのアーティストもニューヨークでライブをやってくれる。ライブが飽和状態なのでチケットも安い。一部のホールやアリーナクラスでのライブは別ですけど、ライブハウス規模だと高くしちゃうと他に行っちゃうので、みんな安いんですよ。

-印象に残っているライブはありますか?

SHAKARA:Kendrick Lamar がアルバムを出したばっかりの時に、たしかブルックリンにある Barclays Center に観にいきました。Kendrick Lamar が登場すると、横の黒人のおばさんが泣いているんですよ。みんな、とても盛り上がっていてエンタメとして消費されていない印象を受けました。

-エンタメとして消費されていないというのは?

SHAKARA:「この人に人生を救われました」、「この人のこの曲で自殺を思いとどまりました」、「この曲がなかったら、私は大学に行ってませんでした」とか。日本のアイドルとはまた違う、そういう感覚です。

-音楽で人生を変えるきっかけなどを与えているんですね。

SHAKARA:そうですね。脈々とそれが文化として受け継がれていて、アーティスト自身もそれを意識していると思う。Marvin Gaye が死ぬ前か何かのインタビューで「自分の作品が周りにどういう影響を与えるか考えない奴は、ミュージシャンじゃない」と言っていて、それこそブラックカルチャーの良さのひとつだと思います。

-先ほどの「自分がやりたいからやっているではダメだ」と気がついた話と通じる部分がありますね。

SHAKARA:そうですね。ちなみに、Reggae のイベントでは DUB のイベントに行くことが多かった。違法なのにみんなマリファナ吸っちゃって、フロアが真っ白になっていましたね(笑)。中毒性のある DUB を100人ぐらい、みんな頭振りながら聴いていました。

「NY 滞在中に立ち寄ったジャマイカ・キングストン① (撮影:SHAKARA)」

「NY 滞在中に立ち寄ったジャマイカ・キングストン② (撮影:SHAKARA)」

-強烈ですね。

SHAKARA:白人の若い女の子もいて、年齢層が広いのはありますね。夜のクラブでもおじいちゃんが踊っていたりする。日本ではなかなかない。日本だと「若い頃はよく行ってたよね」ぐらいの感覚に対して、ニューヨークでは国民的な根付き方だと感じましたね。それも面白かったです。

-ニューヨークの生活で危ない目に遭われたことはありますか?

SHAKARA:自分が行った時はそんなに治安も悪くなくて、危ないとかはなかったんですけれど、ルームメイトと合わせて3人で住んでいて、Daisuke Kazaoka ともう一人日本の方がいて、アメリカでマリファナが合法化しだして、リキッドで吸うみたいなのが流行りだして、「これ、ブルックリンの店で買えたんですよ」と言いながら、そいつがずっと吸っていて、脱法ハーブ的なのでおかしくなっちゃってオーバードーズして、ある日、突然発狂して部屋に戻ると荷物がない。

「どうしたんですか?」と聞くと「なんか分かんなくなっちゃった。俺のことずっと監視してるでしょ。さっきもずっと黒い車がついてきて、トランプに言われて俺のこと監視してるんでしょ。なんで俺のこと、裏切るの?」って。

完全に勘ぐりに入っていて救急車を呼んで、そのまま日本に帰っちゃいました。そういうのも結構、頻繁にあるというか、駅前で明らかに壁に向かっているずっと喋っているおじさんもいました。でも、みんなある程度慣れているのか、フルシカトしているんですよ。

ニューヨークはまだましだと思いますけど。

朝方のハーレムを歩いていたら、脱糞して寝ているやつとかもいましたけどね。クラブいったら話しかけられて「コカイン買うか?」と言われて、「いらない」と言ってもしつこくて(笑)。

「ニューヨークでの生活もともにした Daisuke Kazaoka 氏」

『逆にアイデアが出ていない状態ではやらないです』

4.創作の方法について教えて下さい

-ニューヨークでは創作されていましたか?

SHAKARA:一年目は凄すぎてとても病んだんですよ。Kendrick Lamar のライブを観て、こんなの全然できねえと。インプットの衝撃が強すぎてアウトプットの機能が壊れる、一切何も出てこない。最初の1年はそれで2年目ぐらいで「あれはあれ、俺は俺」と考えました。

別にあれをやる必要はないし、ここで得たものを表現しないのはもったいない。それでミックステープ「PART 2 STYLE MAGAZINE」を出しました。

「PART 2 STYLE MAGAZINE 2018年9月号 〜スタジオワン特集〜 / SHAKARA & Daisuke Kazaoka」

それぐらいから自分で MPC でビートを作り始めました。大ちゃん (Daisuke Kazaoka) に「こういう曲をやってみたいんだけど。トラック作る人いないんだよね」と言うと、「自分で作ればいいじゃない。俺はもうそっちに切り替えちゃったね」と。彼は先に楽器を勉強してレコーディングしていて「それしかなくない?」と言われた。

「SHAKARA氏がトラック制作の際に使用する AKAI MPC」

「自分たちのやりたいことをきちんと形にしてくれる人は現れないよ」って。「それもそうだな」と思って、作り始めたのはありますね。

-最初、作ってみてどうでした?

SHAKARA:とにかく難しかったですね。サンプリングが好きなんですが、最初は全然できず、段々と出来るようになってきて、この前のEP『street nerd』でやっと形になりました。やっぱり MPC を買ってから2~3年ぐらいはかかりましたね。

-サンプリングする時の選曲や基準はありますか?

SHAKARA:基準はないんですけれど、基本的にインプットがとても大事です。とにかく色んな音楽を聴く。ゼロベースで作ることはないので、様々なインプットをして「こういう曲は面白い、このアイデアはいいな」と頭に浮かんでから始めてアウトプットに取り掛かる。逆にアイデアが出ていない状態ではやらないです。

-なるほどです。

SHAKARA:基準はないですね。とにかく色々聴くしかない。

-リリックの書き方はいかがでしょうか?

SHAKARA:ゼロから何も考えないで書き始める、ラッパーの人でも書ける人はいると思うんですけれど、それはあまり得意じゃなくて。何を伝えたいのかがしっかり定まっていないと自分の場合はすごい浅い歌詞になってしまう。根本をひとつ据えて、それを踏まえて書きたいことを箇条書きにしていきます。

-そうなんですね。

SHAKARA:こういう風景や感情を書きたい、それも二階層ぐらいに掘り下げます。緻密にやっているわけではないですが、悲しい感情の場合はどういう悲しさか、その感情の時に見える光景は何であるのか、など実際に書いていき、それがいくつか集まったら「これはサビに持って来よう。最初のバース、2個目のバースにもってこよう」などとパーツを並び替える。

順序立てて書かないで作っていた時期もあるんですけど、すごい浅いし韻を踏むためだけに言葉を選んでいる感じになります。あと、小説や映画が好きなので、シナリオやストーリーがきちんとしていないと少し気持ち悪いなと。

-映画でもストーリーも何もない映画もあるかと思いますが、いかがでしょうか?

SHAKARA:それも根本的な土台があって、そこで突拍子もないことをしていると思います。ゼロからそれをやって評価される天才もいるかもしれないですが(笑)。

-発想を飛躍させたストーリーが捉えにくいものより、伝えることに重きを置いているのでしょうか?

SHAKARA:前者のようなスタイルもやってみたいとは思いますが、まだなかなか難しいですね。映画を観てても「その発想、どこから持ってきてんのかな」と思ったりはします。

「SHAKARA氏の好きな映画『Goodfellas (1990) – Martin Scorsese』」

-ある程度、固まった後でメロディをつけられるのですか?

SHAKARA:ビートは出来ている場合が多くて、箇条書きからメロディをつけつつ歌詞にしていきます。メロディが先に浮かぶこともありますけれど、とにかく「何を伝えたいか」は明確にしますね。

-伝えたいことは曲によって様々だと思いますが、共通するものはありますでしょうか?

SHAKARA:自分の身の周りじゃないことを歌うのは好きじゃなくて。アメコミのようなものより現実味がある方が好きですね。映画も同様です。
ファンタジーだとこの世にないものを作りだせるんですけれど、現実的なものを描く場合、「この世にあるものをいかにクールにみせるか」がポイントだと思います。「これ、今まで見逃していたけれど、この光景はかっこいいんだ」とか、あるじゃないですか。

-解釈の仕方を新しく与える感じですかね。

SHAKARA:そうですね。例えば、アニメは日本の一般的な感覚で考えるとオタクカルチャーや秋葉原のイメージになると思うんですけど、海を越えてみると、それがクールなものとして捉えられている。すでに身の周りにあるけれど「そういう見方もできるのか」みたいな。

「アニメ・ドラゴンボールのスーパーサイヤ人をモチーフとした楽曲『Duckwrth – Super Saiyan』」

それがすごい大事だと思います。あとは言葉にできないことを言葉にしたい。逆に言葉にできることをわざわざ遠回しに言うのは全く好きじゃないです。

-「わざわざ難しく言うなよ」、というやつですか?

SHAKARA:そうです。「いや、それ普通に悲しいと言えよ」みたいな(笑)。直接的な表現でいかにクールだと言わせるか。

-言語化しにくい言葉をいかに直接的に言うか、という点ですね。ちなみに SHAKARA さんがいう”言葉にできない”はどういうイメージでしょうか?

SHAKARA:風の強さは言葉にできないと思います。洗濯物がちょっとなびいているぐらいの強さは映像で見ればわかるけど、言葉でいうのは難しいと思うんですよね。今自分が見ている風の強さは言葉にするとしたら、どういう表現が適切なのだろうか。

-それを直接的に言いつつ表現するんですよね。難しいですね。

SHAKARA:偉そうにカッコつけて言ってますが、でもそういうことだと思うんです。そこには時間を使います。ただ、誰が見ても赤いのに「青ではない」という言い方は腹が立ちます。…青ではないが黄色でもない、いや赤って最初から言えよ(笑)。

-(笑)。

SHAKARA:どう表現するのかという意味においては、それがどれぐらい赤いのかを突き詰めると風の強さの話も同じと思います。…これは難しいですね。


*14 Kendrick Lamar…アメリカ合衆国のラッパー、ソングライター、音楽プロデューサー。2018年、アルバム『ダム』によってピューリッツァー賞の音楽部門を受賞。


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