SHAKARA

タイトル:I’m Crazy (feat. YAMATO HAZE)

※ページ毎にご本人の作品をお聴きになれます

『「様々なレゲエがある」と、あそこにぎゅっと詰めました』

5.好きなアーティスト、憧れのアーティストを教えて下さい

SHAKARA:音楽で言えば断然 A Tribe Called Quest の Q-Tip*15 です。サウンドにプロダクション、その人にとても影響を受けています。個人的にブラックミュージックはやっぱりサンプリングの音楽で、天才というよりはセンスが勝つ世界と思っています。

技術があるから売れるわけでもなくて、音楽の才能があるよりセンスが勝る。音楽の才能が多少ある奴よりピカイチにセンスがある奴が圧倒的に勝つ世界かと。

「一枚のレコードから針の落としあげでビートを作る Q-Tip」

本人が創りだしているわけではないけど、「これとこれを組み合わせたらすごいじゃん」って。そこら辺りのバランス感覚。同じ曲を聴いても違うものが見えていると思うんですよね。

それが凄い面白い。Kanye West*16 もすごい好きで、元々バスドラで使っていた 808 を「これ、引き伸ばして音階つけたらベースラインになんじゃね?」みたいな。ありえない使い方なのに、それがトラップのスタンダードになっている。

トレンドセッター的なセンスがある人が好きです。あっ、それでいいんだって。それだったら俺もできるぞと思わせてくれる。

-始めたきっかけの「俺でも出来んじゃねえ?」に繋がるんですね。

SHAKARA:めちゃくちゃすごいメロディセンスより、俺もこの曲を知っていたのにそうは使わなかったなとか。基本はそういうセンスのある人が好きなのかもしれないですね。Q-Tip に影響を受けて自分でビートを作ってボーカルをのせている部分もありますね。

作品全てが自分の世界になる。Kanye West は最初はそうだったけど、ディレクションもうまいから人の力も加えて自分に持っていく感覚が研ぎ澄まされている。そういうのも面白い。

「楽器、コーラス隊をまとめてグルーヴを作る Kanye West」

-レゲエでは好きなアーティストは誰でしょうか?

SHAKARA:Chronixx*17 が衝撃でしたかね。日本だとさらっとアルバムの代表曲だけ現場でかかったりしますけど、彼のアルバム『Chronology』はとても凄いです。アルバムとしての完成度も高い。

元は Protoje*18 が出てきてルーツ…リバイバルの一環だったと思うんですよ。「そこからいかに新鮮味を出していくか」というところで、Protoje と Chronixx が振り切り始めた。Protoje の最近のアルバム『Third Time’s The Charm』は「もはや、これHip Hopでしょ」といった曲もある。でも、やっぱりそこには Reggae がある。

「Protoje ‘Third Time’s the Charm’ Album」

あれを聴いていると、俺が好きな Reggae でも可能性があるのかもしれないと。Dancehall Reggae じゃなくてもこんなにクールにできるんだって。やっぱり、Roots Reggae は大人が聴くもので古い音楽のイメージがあって。

Reggae はハードな音楽で、裏打ちやベースライン、Deejay はトースティングなどフォーマットがあって、ある程度の制約がある。その中に片足を突っ込んだまま、もう片足は全然違う方にいる。ここまで伝統を守りつつ広げらるんだって。

「トースティングスタイルの草分け的存在 U-Roy」

Hip Hop の方がそういうのが薄いから、ある意味では突拍子のないことをやっても面白い。ただ、Reggae はそうじゃない。「Reggae をやっている」と言っている以上、葛藤は生まれます。

Hip Hop のビートを作って、そこにレゲエのフロウをのせて「これが Reggae だ」と言い張るのも違う。Hip Hop のビートに乗っても、Chronixx はやっぱり Reggae なんですよね。

アンビエントなビートに乗ろうが Reggae。そこは Chronixx の凄さ。彼は天才で Protoje はもう少しプロデューサー的かと。サンプリングもやる人で見せ方などを考え抜いている。

「Free Nationals & Chronixx – Eternal Light」

-SHAKARA さんがいう天才は、直感で判断してもきちんと成り立っている、という意味ですかね。

SHAKARA:そうですね。その発想はなかったなと。ただ、ジャンルもたくさんあって音楽はある程度は出きっていると思うんですよ。だから、「こことここの部分をくっつけてこうしてみる」、その考え方は大切だと思います。そういう感覚が優れていないと戦えないと、感じたりもします。

-音楽以外で好きなアーティストはいらっしゃいますか?

SHAKARA:立川談志*19が好きですね。落語ってステージに1人しかいなくて、お金がかかっていない究極のエンターテイメントだと思うんですよ。そこに座布団だけがあって、その人が出てきて座る。それを大きいホールだと何百人だとか、みんなそれを聴いている。音楽は DJ 機材を持って来たり、照明を使ったりすると思うんですけど、落語はその人の力でしかない感じがする。

「立川談志」

談志は今まであったものを変えたなと。Jazz の Miles Davis*20 もそうだと思いますけど、これまであったものをあえてやらない姿勢。それを追求する人も好きです。これまでのフォーマットに則るとカチッとピチッと話す。でも、ピチッと話さずに同じくらい人を感動させられるか、やってみようと。

ラップもそうだと思っていて、今までは歌わないといけないと思っていたのに、「別に喋りでもよくね?音楽じゃねぇ」って、そうじゃない方を選べるセンス。

-そうじゃない方を選択する、SHAKARA さんの根本の部分のように思います。

SHAKARA:そうじゃない方がスタンダードになっていく過程を見るのが好きですね。創る上ではその人以前と以後に別れる、トレンドになっていく意識はしています。

-なかなかスケールが大きいですね。

SHAKARA:ですね(笑)。自分の定義で言うと、それをできるのは天才ではないと思います。そこにはブレイクスルーさせる天才もいるのかもしれないですけれど、その切り替えを選べるセンスがピカイチだなと。

-人としての嗅覚、勘が鋭いという感覚ですかね。

SHAKARA:やはり驚かされるのが楽しい。オンビートだったのを裏打ちでのせてみると、それが Reggae になる。ニューヨークで一度、Jazz のドラマーの人とセッションすることがあって、他の楽器隊はレゲエの人でセッションをしてみたら、Reggae を知ってはいるんですけど、実際にやってみるとうまくいかなかった。

楽器隊は裏打ちで入るので、ドラマーの人は「どこが一拍目?」みたいな迷いがありましたね。

-変化の瞬間が好きなのですね。

SHAKARA:Reggae なら Reggae に、その音楽のスタンダードが切り替わる瞬間が好きですね。

-Grand Ave Records としての活動でもそこらは意識されていますか?

SHAKARA:はい。Reggae をやるということからは逃げたくはない。ダンスホールもルーツもダブもあって、日本にも様々なシーンがある。ダンスホールもダブでも代官山 UNIT*21 がぱんぱんの状態などを観てきたし色々とある。

大学生の時、大阪からきた奴に「俺、Reggae やってんだよね」と言った時に、そいつは特に悪気なく「そうなんや。俺の地元やと Reggae はガキが聴くイメージの音楽やなぁ。Reggae ってそんなに面白いんや」って。

そういう側面があることもわかるけど、それはとてももったいない。俺が Reggae 以外のイベントに出るとみんなに「お洒落なイベントだね」と言われたりするんですけど、Reggae はとてもお洒落だと思います。

他の音楽がある中で際立つ Reggae の良さを感じてきたので、もしかしたら他のジャンルも出来たのかもしれないけど、やっぱり Reggae を選ぶ感覚があって。これまでのダンスホールだけじゃなくて、Reggae は他にもある。

「彼ら主催のイベント GRAND AVENUE CAMP では様々な Reggae が届けられている」

-それを体現しようとしたのが青山蜂*22で2022・夏に開催したイベント「GRAND AVENUE CAMP」なんですね。

SHAKARA:そうです。ダンスホールのフロアも作ったし DJ Muro*23 さんも呼んでファンキーな Reggae も掛けてもらったし、ダブステップ、ベースミュージックよりのフロアを3Fに作り、和レゲエ、いわゆるジャパレゲではなくて、昔の人がやっていた和物のレゲエも4Fで掛けましたね。

「様々なレゲエがある」と、あそこにぎゅっと詰めました。RudeBwoy Face*24 さんも呼んで現行のダンスホールを持ってきたつもりです。ただ、課題も色々とあって、もっとうまくできればいいなとは思います。

「『GRAND AVENUE CAMP』2022.07.30 – guest:DJ Muro」

「『GRAND AVENUE CAMP』2022.07.30 – guest:RUDEBWOY FACE」

-「GRAND AVENUE CAMP」は一年に一回、企画されているんですか?

SHAKARA:毎年、夏にやっています。青山蜂は普段 Reggae のイベントを開催している場所ではないので、「Reggae の人は面白いね、熱量がすごいよ」とすごい面白がられます。

MC で煽っていくスタイルはベテランのクラバーの人たちからも「Reggae を少し敬遠していたけど、面白いな」と評価してもらえたりしました。そういう人たちにも広げたいし、その人たちが入ってくると、普段 Reggae を聴いている人も「そういう風にみえるんだ」と新鮮に感じると思うんですよね。

「2022年開催の『GRAND AVENUE CAMP』のフライヤー」

「2022年開催の『GRAND AVENUE CAMP』の様子」

俺らにとっては、サウンドマンが MC をするのは普通だけど、無言でレコードを回している人からすると、「この煽り方、はんぱじゃねえな」って。それをクールな方法で伝えられればいい、もちろん、そこに作品も属していますが、それがレーベルの方針ですかね。

-そういった話は盟友の Daisuke Kazaoka さんともよく話されるんですか?

SHAKARA:そういう話しかしないですね。みんな、やっぱり Reggae 好きなんですよ。好きなんですけど、自分の表現したいものが今のスタンダードとずれてくる。今のスタンダードを否定しているのではなくて、ここだとうまく表現できない、それは仕方のないことだと。

そういう人たちもいっぱいいると思うし、無理して合わせる必要もなくて、新しいことを提示して、スタンダードともうまくやっていけたらいいなと考えています。


*15 Q-Tip…A Tribe Called Questの一員でありニューヨーク・ハーレム出身のラッパー、音楽プロデューサー。
*16 Kanye West…アメリカ・ジョージア州アトランタ生まれののラッパー、音楽プロデューサー。
*17 Chronixx…ジャマイカ・スパニッシュタウン出身のアーティスト。レゲエリバイバルの立役者。
*18 Protoje…ジャマイカ出身の現代レゲエシンガー、ソングライター。Chronixxと共にレゲエリバイバルを牽引している。
*19 立川談志…1935年生まれの落語家。落語の新しい形を模索した。
*20 Miles Davis…ジャズトランペット奏者。モダン・ジャズの歴史を築いた。
*21 代官山 UNIT…東京・渋谷にあるライブハウス・クラブ。バーなどを併設した、地下3階建の音楽複合施設。
*22 青山蜂…東京・青山の外れにあるクラブ。4階建てのビルをまるごと利用している。
*23 DJ Muro…「世界一のDigger」としてプロデュース/DJでの活動の幅をアンダーグラウンドからメジャー、ワールドワイドに広げている。
*24 RudeBwoy Face…Dancehall Reggae Deejay。天性の声を武器に多方面で活躍する。


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