※ページ毎に本人の作品をご覧になれます
(クリックすると拡大表示されます)
葛原りょう:朗読なんだよね。森田尚樹が死んでから自分の表現は追悼みたいな思いがどこかにあって、日本語だけど俺の朗読は意味以前の「音」。それも大事でさ、ムジカマジカで最初、山形でお客さんを100人ほど集めてチャリティーライブを蔵でやったんですよ。それが成功して山形県庁の一番トップの政治家に掛け合った結果、ポスターを電車中に貼ってくれたんだよ。詩人がだよ。
葛原りょう:学校の生徒さんがボランティアに来てくれたり、山形県に泊まり込んでやっていた。その時、童話も書いていて、写真も使いつつそれをプロジェクターで反映したのね。2体の人形が主役で自分と同じような友達を探しに行くストーリーなんだけど、梟や川のせせらぎに出会ったりして、実は最初からふたりぼっちではなかったという物語を曲にして生演奏でやったのね。
葛原りょう:俺の地獄のような声色で口ずさんだメロディを音にしてくれた。楽譜は読めないから正確には作曲はできないけれど、頭に旋律はたくさんある。母親がバイオリニストだった影響かな。
葛原りょう:ずっと、聴いていたね。登校拒否していたから当時はゲーム音楽だよね。
葛原りょう:うん、そうだね。だから小学校の頃からブラームスやバッハ、ベートーヴェンは聴いていたね。
葛原りょう:そうね、どちらかというと聴かされていたのかも(笑)。練習で毎日3~4時間やってるからね。たいてい父親に怒ってるので、超乱暴なバッハだったな。……恐かったよ。音で殺されるかと思ったよ。当時、別居もしたから母方についていたのよ。隣が線路で電車の音がガタガタガタとなって、それに加えてバッハがブワっと。そういう状況(笑)。
葛原りょう:そのぐらい音楽とは触れているね。あと、祖父の葛原しげるが童謡作家で、さらに彼のおじいちゃんが葛原勾当という人だった。彼は江戸時代から明治までの人なんだけど、目が見えない人の位、いわゆる当道座*40なんだよな。当時は検校*41というものがあって、国の制度で盲目の人が音楽で飯を食えるようになっている。それで目の見えない人はお琴をやっていることが多いね。
勾当*42というのは検校についで位が高いんだけど、勾当になれば腕が下手でもなんでもお金を積めば検校になれちゃうの。それは嫌だったようで検校になって腕が良くなればもらうけど、そうじゃなければ俺は一生涯勾当でいいと。その人の顔の肖像画が残っているんだけど、俺そっくりなんですよ。
葛原りょう:目が見えないけど、性格はやくざで剽軽でね、弟子も何百人もいてお琴を広めた人なんだな。お正月にかかる「春の海」を作った宮城道雄*43も弟子で、彼を世に出したのも葛原しげるなんだよね。だから、うちの父方はお琴の家系だね。葛原勾当は短歌も書いていて、しかも口語体で日記を書いていた。当時、江戸時代は漢語だったはず。
山田美妙*44などが漢語から口語へ、いわゆる新体詩の先駆者として知られているけど、江戸時代からあったみたいだね。葛原勾当の日記は楽しいよ。歯が痛くて「あいたたたたた」みたいなのが書いてある。
目が見えないから書けなくてハンコで「あ・い・う・え・お」を作っちゃって、それを鋳型に合わせて押して書いていく。確か、ヘレンケラーが葛原勾当日記を元にして「日本の東洋のタイプライターは盲人が作った」と講演をしている。日本に来た時はお墓に来たのかな。彼は 16 歳からずっと日記を書いている。考えてみれば自分で読み返すことができない日記だからね。
葛原りょう:それをなぜ毎日書くのか、そういう心理も非常に奥ゆかしくてさ。そこに短歌が書いてあるんだな。後の「明星」、要するに与謝野鉄幹の時代と比べてもおかしくないぐらいロマンチックな短歌なのよ。すごくいいから葛原勾当歌集を世に出したいね。盲人の歌集。それも工房ムジカでやることのひとつだね。
葛原りょう:ベリーダンスの方と日本で知り合って、その人がパリに在住していて呼んでくれたのよ。ストリートでライブをして最後はワンマンライブをした。その時に「ブラボー」とすごい言ってくれた。おそらくアンコールが起こっていたんだけど、フランス語がわからなくて、辞めちゃって。やればよかったね(笑)。
葛原りょう:もちろん。それがすごい良かったそうで意味以前の声の力をすごく感じた。万国共通なんだなって。日本語は「音」も含めていいものだなと。
葛原りょう:意味は定着されるよね。それを埋めるのが朗読かもしれない。要するに紙に書かれたものは基本的に意味の羅列であるけど、どういうリズムで読まれていくか、作者はどういう心情で詩を書いたのか、中原中也は「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」をどんなリズムで書いたのか、甚だ興味がある。
葛原りょう:そうね。「俺だったらこうする」で披露した朗読がフランスの方から「背筋が凍る体験をした」と賛辞をいただいた。お客さんのフランス人は日本語がわからないからこそなのかもね。
葛原りょう:YouTube などを使って全世界に発信したいし海外でも朗読したいね。日本人はもういいです。……うそ、うそ(笑)。海外で日本の朗読はとてもいいと思う。歌は輸入も逆輸入もして、極まった感もあって。世界的には今韓国の音楽が人気があったりするけどさ。日本の詩の朗読はこれから世界にもっと評価されるといいね。
葛原りょう:わかんないんだよね。こればっかりは。俺がなんで短歌を書けたのか、それも不思議だった。定型だから牢獄みたいなもので。そういえば、寺山修二が「言葉は牢獄」といって、そこから脱却したいと映像の方にいくんだけどさ。でも、言葉というのは意味がなかったとしても無限に広がるものなのじゃないかなと思う。お経が海外で人気があるのも関係がありそう。「音」はリズム。
葛原りょう:心地よさもあり芸術的に耐えられるものだと思う。詩の朗読をしている人はその意識を持って、武者修行をしたら案外いい線にいくんじゃないかなと。超有名になるかもね。ラップが好きな人もたくさんいるわけじゃん。詩人だってね。
*40 当道座…中世から近世にかけて存在した男性盲人の芸能などの職能集団の自治組織。
*41 検校…中世から近世における盲人の役職の最高位。
*42 勾当…盲人の官名の一つ。検校(けんぎよう)の下、座頭の上に位する。
*43 宮城道雄…日本の作曲家・箏曲家。葛原しげるとともに子ども向けの曲をいくつか作っている。
*44 山田美妙…日本の小説家・詩人・評論家。言文一致体および新体詩運動の先駆者として知られる。