響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い- 拡充版 08
2025年に刊行したミュージックガイドブック『響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い-』(羊目舎)はスポークンワードの入門的一冊を目指して制作されました。
本稿はそのスポークンワードガイドをさらに充実させるブースターテキストのようなコラムとなります。入門的・平均的であることを意識した『響きあう詩人たち』の枠組みを外して、さらに自由に書いていきます。
意図を汲んで、掲載してくださった auly mosquito の笹谷創さんに感謝しております。
ウェブという特性を活かして、楽曲の URL がリンクできる作品は貼りつけてありますので、ぜひ聴きながらコラムを楽しんでください。

小島ケイタニーラブ
5つのovoj
勁草書房 / 978-4326851898 / CD+BOOK / 2013
【朗読劇 銀河鉄道の夜】第三弾の音源となった CD ブックである本作。書名は『ミグラード 朗読劇『銀河鉄道の夜』』であり、付録 CD は小島ケイタニーラブのソロのミニアルバムとなっている。全編を通して、朗読劇メンバーや関係者が客演参加しており、前作に比して、英語訳朗読やエスペラント語朗読などが挿入され、多重的・多層的な構成を保っている。この朗読劇に何度も挿話される花巻のおばあちゃんと小島の会話が本作でも非常に効果的な役割を担っており、柴田元幸の朗読と掛け合わさる「フォークダンス」も深く感動的である。
※リンク先は原盤にあたる『The Sea』になります。
石坂浩二
海 空 大地
UNIVERSAL MUSIC / TYCN-64013 / 3CD / 2014
本作は1967~1968年にかけてリリースされた朗読アルバム三部作である『海』、『空』、『大地』の初 CD 化作品であり、三枚組にコンパイルされている。元々はフォーク・シンガーのロッド・マッケンの詩に、サン・セバスチャン・ストリングスの演奏が合わさるという原盤シリーズがベストセラーアルバムとして世界中で発売されており、その日本編集盤といえる。英詩のままの音源も日本でリリースされたが、岩谷時子が日本語詞をつけて、石坂浩二が朗読するというコンセプトが採られている。1971年の佐藤允彦トリオ『スウィンギング・ポエム “風と光”』も連想させるアルバムだ。スポークンワードのベストセラー企画シリーズとしてぜひチェックしてみてほしい。

竹村延和
Zeitraum
Happenings / DQC-1229 / CD / 2014
2002年リリースの『10th』(Childisc)以来のフルアルバム。竹村延和はミニマル音楽を中心に幅広いトイ・ミュージックを展開する音楽家である。スティーブ・ライヒの作品リミックスや三宅一生のファッションショーの音楽を担当するなど、世界的な評価が高い。2008年に京都からドイツへ移住して以後、初のアルバムでもある。タイトルはドイツ語で【時間・期間】という意味を持っている。最小限の音楽が鳴り響く中で生まれる童話(メルヘン)の音楽世界は、聴くものの心に懐かしい児戯の空間を憧憬させる。音の中で展開するスポークンワード/ポエトリーリーディングの詩はすべて竹村によるもので、「暦の遊戯」、「手品師とプログノーゼ」、「忘れられた紐帯」には Angela がボイスで参加し、五曲目「錆びたヒンジ」には cayou が参加している。竹村独自の世界にどっぷり浸ることのできる作品。
言音
poetrangea
SELF-RELEASED / NONE? / CD / 2016
言音(ことね)は詩人・演出家の久世孝臣と現代音楽家の市川ロ数による、ポエトリーリーディング&現代音楽のユニット。2013年リリースの『言音』に続くセカンドアルバム。このユニットはスポークンワードであると同時に、話者と演奏を同位に見ている点が特異であろう。久世の様々な舞台経験を活かした長広舌の饒舌体も魅力である。それと同時に「ao no kizu」のように声の断片を市川の音世界に委ねてリフレインさせる効果も容易く理解している。言葉が象徴を保ちながら一つのループサウンドとして成立することが新鮮だ。市川の奏でる鍵盤の一音が水滴のように響く雨の日に聴きたい一枚。
最果タヒ/しもつき七
空が分裂する
SELF-RELEASED? / NONE / DIGITAL / 2016
最果タヒが2012年に刊行した第二詩集『空が分裂する』(新潮社)の中からセレクトされた十編を、現代詩フォーラムの投稿詩などで活躍するしもつき七が朗読した音源集。素朴にそっと囁くような朗読がリスナーの心に寄り添うようにある、といった優しい一作で、後年に最果の詩を朗読する青柳いづみとはまた異なる方位の魅力を備えている。
amazarashi
地方都市のメメント・モリ
Sony Music Associated Records / AICL-3465/7 / 2CD+DVD / 2017
四枚目のフルアルバムとして通常盤の他、初回限定盤が二種類リリースされた。初回限定盤 A には LIVE DVD と詩集ダイアリー、(今回採用した)初回限定盤 B には弾き語り CD と MV DVD が付属する。「空に歌えば」などかなり J ロックの立ち位置を意識したヒットソングが収録されるようになった転換作といえる一枚である。それと同時に今まで amazarashi が抱えていた焦燥感や、平成令和の吟遊詩人と呼びたくなる秋田ひろむの絶唱やスポークンワードは鋭さと緊張感が研ぎ澄まされている。スポークンワード楽曲「水槽」の小説を耽読するような感覚、あまりにも胸焦がれるバラード「命にふさわしい」など名曲揃いだ。
坂本龍一
async
commmons / RZCM-86314 / CD / 2017
坂本龍一による16枚目のオリジナルアルバム。前作『アウト・オブ・ノイズ』から数えて八年ぶりのリリースとなった本作は、誰にも聴かせたくないという坂本本人の意向がそのままプロモーションに繋がり、J-WAVE での緊急生試聴会やワタリウム美術館での企画などが大きな話題を呼んだ。本作は「fullmoon」ではベルトルッチ監督の訃報に接して映画『シェルタリング・スカイ』からポール・ボウルズの朗読が引用され、また「Life, Life」では盟友のデヴィッド・シルヴィアンによる静けさと気迫に満ちた朗読が音楽に調和している。ぜひリミックスアルバムである『ASYNC – REMODELS』も同時にチェックしてほしい。本作から数えて六年後の2023年に生前最後のアルバム『12』がリリースされる。
Tokyo Harem × iidabii
ADY/COMBAT/戦え
NONE / NONE / DIGITAL / 2023
朗読詩人・iidabii がポエトリースラムの世界大会を通じて出会ったマダガスカルの詩人・Tokyo Harem。日本が大好きなHaremのツアーのために、クラウドファンディングなどを通じて来日までの道を作ったiidabiiと、それに応える Harem のパフォーマーとしての力強さが印象的だ。本作はそんな二人のコラボレートMVである。楽曲制作にマサキオンザマイク、撮影編集に柳沢イソジン、翻訳に林淳が関わっている。お互いが人生を賭して、未来に向かう意志を戦いという一語に集約している。どちらも一歩も譲らない共闘という張りつめた空気感があり、マサキオンザマイクのビートが相乗効果として声の印象を深く掘り下げてくれる。
F.I.B JOURNAL
現象 hyphenated
FOOOP / FPVL0001 / LP / 2025
2003年の山崎円城によるソロデビュー、そしてファーストアルバム『F.I.B HEADLINE』(basis records)のリリースから二十二年間、ポエトリージャズの表現を追い続けてきたジャズバンクトリオによる通算八枚目のフルアルバム。前作『多様性に住み / DAYS365, Standing On The Conner』(ORDINARY FOLK RECORDS)に続き、TICA の武田カオリがボーカルで客演している。彼らは自らの表現を ANGRY JAZZ とも表現しているが、その怒りは拡声器を通してもなお、絶叫ではない静かな怒りと内省する声に満ちている。狂騒と呼ぶに相応しい極上のジャズサウンドが今作でも止むことのない進化を遂げている。
消えたプリンと6人の探偵
再演、六月の白昼夢とアングレカム
NONE / NONE / DIGITAL / 2026
クリエイターがチームになってオリジナル楽曲を投稿するインターネット上のイベント「ボカデュオ2026」への参加 MV として公開された一作。メンバーは、ボーカル・乃花こより、楽曲・TAKIO、イラスト・四宮のん、映像・Kokemani、ミックス&編集・針生カミル、ロゴデザイン・桃咲ちぃの六名から構成されている。楽曲はミステリー仕立てとなっており、淡々と考察する感じが戯言シリーズやダークポップなライトノベルの雰囲気があって個人的にはめちゃくちゃ刺さる。TAKIO による楽曲はベースのスラップが心地よく、三分に満たない短い曲の中にもしっかりとした展開と充実感が残る。
今回のコラムのようなスポークンワード作品を紹介した『響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い-』(羊目舎)は下記オンラインストアにて販売しております。ぜひ気になる方は入手してみてください。
《羊目舎 Online Store URL》
https://hitsuji3poem.base.shop
(文章:遠藤ヒツジ)
前編:響きあう詩人たち -日本語スポークンワードへの誘い- 拡充版 07
『光よりおそい散歩』

