関口竜平(本屋lighthouse)

『この前、「ライブをやりたい」と言ってくれた高橋君の存在がとても大きくて』

4.今後の目標を教えてください

関口竜平:地続きのものを継続させつつ、本以外を拡張させていきたい。具体的には音楽や映画、表現物全般はやっていきたいですね。音楽は少しずつ広がっています。それこそクリープハイプの尾崎さん*13が色々と関わってくれて、12月8日に『夜にしがみついて、朝で溶かして』というアルバムが出るんですよ。そこで芥川賞候補の小説『面影』を含めて、全般的にやりましょうという話があって。

フリーペーパーを作って特典にする動きがあって、今そのレビューを書いたりしています。本家のCD屋ではないからすごいたくさん売れるわけではないんだろうけど、ここのお店には「音楽もあるぞ」というのを浸透させていきたいですね。

-クリープハイプ x 本屋lighthouse-
アルバム「夜にしがみついて、朝で溶かして」の発売記念フェアページ

-音楽も本と似た選出の方法ですか?

関口竜平:そうですね。それは本と一緒と思っていて、きちんとフィルターをかけてやっていく。あと、クリープハイプというメジャーな存在があることによって、マイナーなところにも陽が当たると思うんですよ。

関口竜平:クリープハイプと同じ棚に Moment Joon や popi/jective*14 を置いていると、たとえその2組を知らなくても「この人たちもすごい人なんだな」という風に思ってもらえる可能性がある。それは大事なことで、実際にやっている方向性や向いているシーン、そもそものマスが大きいか小さいかというだけで、質は変わらないものが多い。だから単純にもったいないと思いますね。

「1st.ミニアルバム『popi/jective(試聴)』」

-それは、言えているかもしれませんね。

ラップやポエトリーリーディングという理由だけであまり知られていない作品を知ってもらうために、ロックという大きいジャンルと一緒に並べる。
そういうことを意識的にやりたかったところに、尾崎さんが来てくれたこともあってありがたかったです。いちリスナー、いちファンとして共鳴した人と一緒に仕事をしている関係になっているのはすごい良いことだと思います。

-ポリシーを表明しているからこそ、繋がっていくのかもしれませんね。

関口竜平:「さすがに立ってる舞台が違いすぎるでしょ」と思っていた人も、向こうから降りてきてくれる。本屋という場所自体が様々な方面に開かれているので、多ジャンルとの接触を持てるというのも含めて役得だと思います。

-そこを開かれた場所にしているのが、関口さんのあり方のひとつだと思います。

関口竜平:そうかもしれないですね。今後の目標にもつながるんですけど、ここを自由に使ってくれる人を増やしたいんですよね。この前、「ライブをやりたい」と言ってくれた高橋君*15の存在がとても大きくて。彼は読書会も月一でやってくれていて、その読書会が終わった後にほかの常連さんとアンプを繋いでギターを弾いたりしていて、その流れで「これ、ライブやりたいですね」と言ってくれて。そういうのが増えてくると面白いです。

「高橋くんと謎の男」の配信ライブの様子 -『幕張おんがく祭り2022年冬』より

-そこから様々なジャンルの人が繋がるとより面白いですね。

関口竜平:きちんとした大きなステージでやるのはハードルが高くても、この場所では自分のやりたいことができる。その辺りは本屋・生活綴方*16さんも似たような感覚があると思います。

-先日、本屋・生活綴方でやっている畑の芋煮会が開催されていましたよ。

関口竜平:芋煮いいですねー(笑)。場所として開いていきたいので、自分の普段の振る舞いも意識的に開くようにしています。この人にはそこまで畏まらなくていいとか(笑)。どうしてもお店とお客さんという関係があって、逆にお客さんが畏まることも多い。特に個人店に好んで来てくれる人は配慮をするのが得意だと思うんですよ。そこが逆にもったいないと思うこともあります。

「本屋・生活綴方の畑の様子(Instagram のアカウント『本屋の畑』にて更新中)」

「店主と本当は距離を近づけたいけれど迷惑かな」と感じているのだったらもったいない。そこに関しては「本を買いに来なくていいんで」というスタンスです。「やることねぇな、いくか!」ぐらいの(笑)

-素敵ですね。

サークルのたまり場のようなホッとする場所として機能していくと「自然と売り上げも上がっていくのではないか」と考えています。磁場が強いところに人が集まれば、何かしら起きるのでお店も大丈夫かなと。

-しっかりと考えられていますね。

関口竜平:意識的と言いながらも割と自然体なのかもしれないですね。個人でお店をやっていくには、いかに楽をしてやっていくか。日々の売り上げももちろんですが、個人店はメンタルケアが一番大事と最近は感じています。売り上げが低くても、メンタルを保っていればなんとかなる。売り上げが低いのは他の仕事をすればカバーできますから。

-今後に向けた大きな目標は有りますか?

関口竜平:一番わかりやすい例だと地下にライブハウスを作る。最初に本屋をやった時の一番大きな青写真がそれだったんです。一階が本屋で地下がライブハウスで二階が家です(笑)家を建てるローンとお店のローンを一緒に考えれば色々と楽になりますし。

「いかにそれに近づけていくか」という想いはありますが、幕張は埋立地が多くて地下が作れないところが多いんですよね。そういう制限があってなかなか大変なんですけど、できるかぎりはじめの青写真に近づけたいですね。

-これからも幕張を拠点にするんですか?

関口竜平:そうですね。

-その理由は何ですか?

関口竜平:自分が生まれ育った場所だし、くわえて本当に住みやすい街なんです。ただ「文化的な場所だけがない」とずっと思っています。

イオンシネマやユナイテッドシネマなどの大きい映画館、蔦屋書店などの大資本!みたいな場所はありますが、ミニシアターや小さい本屋、何よりも音楽系の施設が幕張メッセしかないんですよね。それこそ幕張メッセは大資本ですし、気軽にライブができる場所ではまったくない。

だからなのか大学に入って都内に出るまで、ギターかベースを背負っている人を見たことがなかったんですよね。都内に出るとこんなにもいるのかと(笑)。

とにかく幕張辺りには、そういう文化的な拠点だけがない。それさえあればこの街は完璧なんです(笑)。近隣には IKEA やららぽーとがあるし、衣食住だいたいそろってしまう。家賃もそう高くないし都内にも出やすい。

-lighthouse さんを起点にそういう場所が出来て繋がっていけばいいですね。

関口竜平:おっしゃる通りですね。

『稼がなくちゃという方向に舵を切ると「俺、頑張っている」と思うはずです(笑)』

5.お金についてどう思っていますか?

関口竜平:例えば、週7日働いて年収1000万円の人と週3日で年収300万円の人だと僕は後者の方がいいですね。考え方の基本が「お金がたくさんあった方がいい」というより、「できる限り楽をしたい」方なんですよ。だから、このお店の運営も現状は1人なので大変なんですけど、自分の判断で辞められるので、そういう意味ではすごい楽なんですよ。

人を雇うと色々やれるので、売り上げはあがるかもしれないけれど、その分の人件費も必要になるしやらなくちゃいけないことも増える。その人の給料は確実に出さないといけないとなると、お店を開けなくちゃいけない時間も増えるし、それに付随して自分の責任ややることが逆に増えちゃうので、人を雇わずにできる方法を探しています。ようするに、いかに一人で完結できるか。お金も人生もそれを基本線に考えています。

-いかに一人で完結できるか、必要な視点ですよね。

いかにして最小単位でやれるかという感覚がある。家族を持つにしても、ならばお店を家族経営でやれればいいという考え方です。ミニマリストとはまた違うのかもしれないですけど、売り上げをあげる方法を考えるより、出ていくお金を減らす方法を考えた方がいいと思っています。

そういう意味でも畑とかやりたい。そこで食費がかからないとなれば、お店の売り上げもそこまであがらなくても生きていける。本屋の業態で売り上げをあげるのは結構大変なので、「1000万円を稼ごう」と考えるより「出ていくお金を100万円にしよう」と考える。頑張りたくないために頑張っているところはあります。

-それはそれで、ストイックですね。

関口竜平:でも、そもそも頑張っているという感覚もないですね。やりたいことに労力を費やしているからかもしれないですね。稼がなくちゃという方向に舵を切ると「俺、頑張っている」と思うはずです(笑)

-お金という存在に対してはどういう考えをお持ちですか?

関口竜平:あんまり頓着ないんですよね。あったらあったで楽だろうけど……。でも仮に宝くじが当たって1億円が口座に入っても生活は一切変わらないです。使いたいものも特にないんですよね。……あっ、ライブハウスは建てるかもしれない(笑)

-(笑)

関口竜平:ライブハウスを建てた後は特に使わないと思います。お金のある・なしで自分の生活が左右されるイメージがないです。1億円が口座にあっても、小屋で生活したければ小屋で生活していると思うんですよ。面白そうだし。

-実はすでに口座に1億円が……。

関口竜平:あったらいいですね。そこは想像におまかせしますが(笑)。とにかく老後や家族を持つと考えると、最低限のことはしないといけないとは思うんですけど、それをやらないといけないと思って辛くなるなら、やらない方がいいとも思っている。半分なりゆきでいいかなと。

-そういった自分なりの価値観や考え方を人へ伝えたい気持ちはありますか?

関口竜平:自分で完結している感じはありますね。「そこは他人の生き方だから」と思います。そこに干渉する意識はないです。人それぞれ「楽」だと思うポイントはちがいますし。
ただ、こういう感覚になれるのは恵まれているからだと思います。裕福ではないけど、少なくともひもじい思いをしたことがない。おじいちゃんが定年までバリバリ公務員をやっていて、土地を持っていたりアパートの経営もしていたりで、小さい頃はただ競馬と酒が好きな人としか思ってなかったんですが。

-(笑)

関口竜平:困ったことがあったら頼れる存在がある状態で僕は生きてこれている。ただ、そこに甘えちゃいけないとは思っています。施しがあれば遠慮なく受けとるけど、そこで得た恩恵は下の世代に回せるように、取れる分は取っておこうという感覚ですね。僕の親がそういう考え方で家計をやりくりしていたことを大人になってから知ったのも大きいです。

-子ども心に感じていたんですね。

高校生ぐらいになって、事情がわかってくるとだんだんと「うちの親はそういう意識でやっている」と気がついてくるんですよ。まずは「これはありがたいことである」と認識しなければいけない。その上で自分が余裕のある時は取っておいて、余裕のない時に使うとか、「下の世代に回せばいいんだな」という風に考えることで、いい意味でフラットに現状を受け入れられるみたいな感じです。

-お店でやられている”こども読書ちょきん*17″にもその感覚が反映されているのかもしれないですね。

関口竜平:そうですね。軸としてはあるのかもしれないですね。実はお店を始めてから口座の残額がほぼ一定のままなんですよ。なんとか、保ちながら続けられている。

とはいえ一般的にみると「それで大丈夫なのか?」と思われるくらいの残高だけど、なぜか安心感があります。それは、いざとなったら助けてくれるだろうと思っているところがあって、逆に言えば「助けたい」と思ってもらえるような生き方をしていればいいと考えていて。

「お店がやばいです!」となったら、各方面から飛んできてもらえるようなそういうお店であればいいと思っています。

「こども読書ちょきんについて(詳細)」

-大切ですね。

関口竜平:基本的には助ける側でありたいけど、助けてもらう側でもある。あのお店がなくなると困ると思ってもらえるのが、お互いにとっていい。



*13 尾崎さん…バンド・クリープハイプのボーカル、ギターを担当する尾崎世界観を指す。小説家としても活躍中。
*14 popi/jective…アーティストの笹谷創と詩人の佐藤yuupopic による音楽と詩のユニット。
*15 高橋君…lighthouse の常連で、読書会やイベント『幕張おんがく祭り』を開催するアーティスト。
*16 本屋・生活綴方…東急東横線、妙蓮寺駅徒歩2分にある本屋。
*17 こども読書ちょきん…売上のなかから子どもたちが本を買うためのお金を捻出するシステム。


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