遠藤ヒツジ

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影、ふみ、日のうつろい(『RE言語』)(2017.11)


青天みたいに、
どこまでも澄みきって
空高く高く透きとおって
みんな青ざめればいい。

(影を踏もう、僕らたとえば荻窪で雲を眺めながら。

都会の雑音が煩わしい、って誰が言うの?
詩人が書くの、ミュージシャンが歌うの、革命家が叫ぶの?
でもその雑音一つ一つに人生がある
あまねく音に感情がある

(母か弟の影踏もうか、より悪くならない方を踏むんだ

急な五月雨みたいに
きっとくるんだろうね
そんなとき、みんな鞄や掌で
自分を守るんだろう、一瞬の閃光に目をやられながら

(どの影踏もうか、選ぶんだ、ビーフオアチキンみたいに

たしか学生の頃、
バルテュスの絵画展の看板、
その裏をカープ帽の男の子が駆けるのを目撃した
バルテュスの影を踏んだ、あの子はまだ無事だろうか

(影は隠喩、隠喩は真実を孕んでて、だから真実を踏もうか

みんな夕暮れみたいに鈍ければいい
鼠色のスーツで
すばしっこく早足なんてしないで
フィッシュマンズを聴いていればいい

(どちらかより悪くならない方向へ影踏もうか

母の作るカレーライスを待たずして食べるハンバーガー
恋人たちの戯れと、孤独な人の舌打ち
西野カナのライブ映像の下で読まれている金子光晴詩集
食べ物掠め、眠る恋人に手を合わせ、映像は灰色一色

(影踏もうか、影のあるうちに

みんな夜に鼓膜をひらいて
あまねく音がしだいに静まるのを聴く
――ああ、もう寝たねえ
――僕らもそろそろ
――バルテュスについてもう少し語ろうか
――アンパンマンが夢に出ますようにって祈ってごらん
――おやすみ

(踏もうか、影のあるうちに

(踏もうか、夜が北の空の方から蹂躙される

(その前に


『無理することはないけど、「無料で頼んで当たり前だよね」みたいな業界になるのは危険だと思う』

5.お金についてどう思っていますか?

遠藤ヒツジ:イベントの出演や原稿の依頼とか人にお願いする時は、基本的にお金を出します。お金が回った方がいいと思う。タダでお願いするというのは苦手かな。自分でイベントをやる時は出演料を含めてお支払いをしたい、原稿に関しても特別な事情がない限りは、ある程度お出しして用意したい。

-その根底にはどういう考えがありますか?

基本的には資本主義の中で生きている。それぞれの界隈の事情はあると思うんですけど、武道館でやるロックフェスティブルとどこかの会館で集まるリーディングや現代詩のイベント、規模が違うから金額の大小はあると思いますけど、少額でも業界に見合ったものを出すことが重要だと思っています。無理することはないけど、「無料で頼んで当たり前だよね」みたいな業界になるのは危険だと思う。「イベントに出してあげるから」とやりがいだけで成り立たせているのはちょっと。事情もあるから全部が全部悪いというわけではないけど、個人的には自分がやる時は多少でも回していきたいなというのはある。

-全て無料と言うのは不健康な状態なのかもですね。

遠藤ヒツジ:そうそう。そういう意味では、お金ありきで新しいシステムを作る人は見習うところがありますね。クラウドファンディング*13は物凄く新しいというか、要は特典つきの事前予約制度なんですけど、それに”寄付”という感覚を持てるプラットフォームを作った意義は大きい。Amazon が限定のポスター付きの CD を売っていたり、特典つきの事前予約は今までにありましたが、あれをひとつのプラットフォームにしたのが本当に素晴らしいと思っていて。

「遠藤氏も携わる『KOTOBA Slam Japan』 のクラウドファンディング」

-同じ値段でも支払いの意味合いを変えていますよね。

遠藤ヒツジ:そうそう。例えば、商業出版で本を出した場合は1500円と値段は決まっていますが、「その作家を応援したい」とか「限定グッズもつきますよ」となると3000円を出してもいいわけじゃないですか。クラウドファンディングだとプロジェクトも達成して出版もできればなおいいですよね。今、スパチャ*14とかああいうのもすごいですよね。

YouTube だと登録者1000人以上が必要でなかなか稼ぐとはいかないでしょうけど、個人でも稼げるようなシステムが容易に出来てきているのがすごい。BOOTH*15 とか個人通販もある程度パソコンが触れれば誰でも作れる。表現をお金に還元できるシステムが増えてきたのは個人的には良いことだと思います。

「BOOTHにて立ち上げた遠藤氏の個人サークル『羊目舎』の通販サイト」

-そうですね。そういう仕組みはこの時代ならではですね。

あと、建築家の坂口恭平さんのお金の仕組みは面白いですね。彼はここ2年ぐらいで油彩画を描き始められていて、それを画集にする話が SNS から集まってきたり、自分の本を10万円とかで売る。200人,300人が支援してある程度の金額が集まって、それを様々な活動に充てられています。あの人の人間本来の持つ力が大きい作用もあると思うんですけど、あの仕組みはどうやったらできるんだろうって(笑)

躁鬱で波があるみたいなんですけど、表現活動と一緒に実利みたいなものをあれだけのエネルギーで持っていくのは見たことがない(笑)参考にできるかはわからないですけど、あの人のお金の仕組み、流れ、その考え方はものすごく面白い。

-なるほどです。

遠藤ヒツジ:元々モバイルハウス*16として3万円で家を建てるプロジェクトをやっていました。それで軽トラで部屋を作って旅行する人が増えました。考え方がすごく天才的というか全部を追っているわけではないのですが、あの人は面白いですね。飽きることがない。

「映画『モバイルハウスのつくりかた』予告編」

-発想と行動が備わっていますよね。

遠藤ヒツジ:ビジネスの発想もすごいし、作品自体もクオリティが保たれているから評価されるんでしょうけど。ホームレスの人の生活に感動した話があって、捨てられているようなバスタブに住んでいるおじさんがいて、そのおじさんはお湯とか水を張って身体を洗うこともできるし、寝ることもできる。そのおじさんは、バスタブの横にまな板をつけたんですよね。そこで調理もできる、生活スタイルがそこに集約していることに坂口さんは感動したらしくて、その発想の柔軟さというのはその人からしか生まれてこない。誰も作れないと。

-以前、自分が動くであろう箇所にノートを置く話を聞きました。発想は必要から生まれるものなのかもしれませんね。

遠藤ヒツジ:そうですね。それこそ、夢ノートを付けている人は眠るところにノートを置いていますね。話がちょっと逸れましたけど、お金自体は回すのが正しいと思っています。今、オンラインだと現実的にむずかしいところはあるので、無料でやろうと思っている人はもちろんOKですけど、基本的にはお金を稼ぐこと、回すことは少額でも考えている。

なので、収益化できるシステムが入っているのは重要だと思います。基本的には活動のモチベーションにするために稼ぐことは頭の隅には置いておきます。

-活動の上で大切なことですよね。

遠藤ヒツジ:やっぱり見える対価というのは重要だと思うんですよね。自分はこのパフォーマンスで「何百円、何千円稼いだ」という経験になる。そういうところは、モチベーションに繋がると思うんですよね。今だとポエトリーリーディングや朗読はシーンが小さいので、お金をたくさんだしてイベントをやっている方が多いと思うから、そういうことを考えます。

こないだ、東京国際フォーラムで Patti Smith が Allen Ginsberg の朗読をする企画があって、そういった朗読のイベントで1万円や2万円のチケット代で人が集まることもありますし、可能性がないわけではない。ちなみに最果タヒさん、こないだ10回目の増刷をしたらしいですよ。詩集でそれはすげぇなって。彼女の作品自体を読んだことはありますが、メディアに出てこないので人となりは分からないです。ただお金に関して意識が向いていると思います。やっぱり、お金には意識が向いていた方がいいと思うんですよ。

「Patti Smith が Allen Ginsberg の『Howl』を朗読」

消費税も考えた方がいいと思う。ギャラ5000円と言われた時に内税なのか外税なのか、それを聞く人は嫌かもしれないけど、500円も違うわけですから。500円を稼ぐのは大変でしょう。バイトだったら30分は働かなきゃいけない。自分のイベントをやる時は明細をなるべくだすようにしていて、今後、フリーランスで活動する時に必要な書類にもなるしやった方がいいと思うんですけどね。必要がある人がいるなら、それをベースに考えた方がいいと思います。

-“必要な人ベースで考える”…。良い視点ですね。

遠藤ヒツジ:採算を度外視したとしても、どれくらい度外視しているのかは分かっておいた方がいい。そんなの考えなくてもいいぐらいアラブの石油王がスポンサーについてくれないかとは常々思っていますけどね(笑)

-まさかの石油王待ちですね(笑)

遠藤ヒツジ:お金を持っている人とそうでない人の格差が結構あって、例えば Uber Eats なんか必要に駆られてやっている方が多い印象ですよね。定着しているので好きでやっている人もいるかもしれないですが。あれ自体はアルバイトと違って時間に縛られない好きな時間に働ける、すごくいいサービスだと思うんですよね。ものすごく自転車を漕ぐから健康にもなるし。

それと同時に労災や交通の問題が色々と出てきたなと思って。元々自転車って車道を走るものだから、それで正しいんですけど、やっぱり慣れていないと危ない。僕も車で移動する時、自転車が急に膨らんできたり、曲がる時に「そこは、一回止まらないの?」といった感じで危ない。

-急ぐ理由はあるんですかね。

遠藤ヒツジ:もたもたしていると届ける時間に遅れて、評価に関わる事情もあるし、迅速に配達することで中にはチップをもらえたりすると思います。ただ、そんなに急ぐことなのかなと思ったりする。

宅配サービスで時間指定をしても遅れたりするじゃないですか。午前中に配送なのに13時ごろに来ちゃったりとか。実現しない可能性があるならそのサービスは辞めた方がいい。出来ないことは言わない方がいいと思う。サービスが存在するから時間を指定するわけです。ポストに入れたり近くのコンビニで受け取れたり、選択肢が増えているのは良いと思うんですけど、時間指定は無いなら無いでみんな考えて注文すると思うんですよね。

-忘れがちになりますが、サービス実現の下には人間の労働がありますよね。

遠藤ヒツジ:そうね。だから、あんまり無理しないでと。便利だしありがたいけど、それで社会がきつくなるならもっと緩めたほうがいいんじゃないと思う。郵便の土曜日の配達がなくなるのは、いいことだと思っています。消費者としては不便ですけど、それしかないんだったらハッキリそういった方がいい。人に過剰に働かせてサービスを維持するのは辞めた方がいいかなと。思うところは、そんな感じですね。


*13 クラウドファンディング…インターネットを介して不特定多数の人々から少額ずつ資金を調達すること。
*14 スパチャ…スーパーチャットを指す。ギフティング機能の一種である投げ銭。
*15 BOOTH…pixiv と連携したショップ作成サービス。
*16 モバイルハウス…「動く家」、「移動できる家」のこと。


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