DJ YEW

『自立進化の可能性に惹かれるのは、強さの差はあれど誰かしらあるんじゃないかと思う』

6.子供の頃

-どういう子どもだったか

DJ YEW:教室のラジカセで TRF を聴くまでは割と普通の子どもだったと思う。真面目だった。

-内なる暴力性なるものにはいつ自覚的になられるんですか?

DJ YEW:ヒップホップを初めて耳にしたとき、それまでは本当に真面目にやってきたからだからこそのギャップ。音楽の授業で習っていたのは綺麗な声でハーモニーを重ねてリズムを合わせて歌いましょう、演奏もこういうメロディが美しくて西洋のクラシック音楽の歴史があって、これが素晴らしい。となっていた中で洋服屋で聴いたヒップホップは綺麗でも何でもない、怒鳴り声みたいなべしゃべしゃなって、ドラムもドンドンなっていて、メロディもなかったし、そこにスクラッチの音がありサビもない。

「なにこれ」と思って。やりたい放題やっているなこの人たち、そこで凄く目の前の世界が広がった。これで人間いいんだって。あと地元にヤンキーがいたんだけれど、田舎のヤンキーはダサいんですよ。そういうのに憧れるのはなくて、バイク乗ったりギター弾いたり、煙草吸って、みたいなのに全然惹かれなかったし、だからこそヒップホップの人たちの洗練された暴力性や不良性にすごくくらっちゃって。

これが都会なんだって。案外もしかしたら田舎コンプレックスがあったのかもしれない。

あんまり人には言わないけれど、西洋人コンプレックスもある。欧米のものは優れている、都会で外国人がやっているカッコイイ表現、かつ暴力性を含んでいた、それを体現していたのが DJ KOO と思っていて、DJ KOO の次に衝撃を受けたのは DJ HONDA*29。NHK で DJ HONDA のドキュメンタリーが流れて、そこで初めて DJ はこういうことをやっているんだとようやくわかった。

スクラッチの音とかは聴いていたけれど、どうやってそれをやっていたのかわからなかった。レコードだけでやっていると思っていたらクロスフェーダーを使っていた。

なるほど、これかと思って DJ HONDA のビデオは繰り返して何度も観た。

「dj honda story 1997 part1 @ new york japanese tv show」

こういう風に表現をしてやっていくのが DJ なんだなと。DJ KOO は存在としてのインパクトが強過ぎて、具体的にどうやれば DJ になれるのかは DJ HONDA でわかった。

-存在と実践ですね。

DJ YEW:子ども時代の記憶としては普通の真面目な少年だったところに DJ というものが突如入ってきた。

-地元には町全体に都会への憧れみたいな空気感があるんですか。

DJ YEW:なんていったら言いんだろう。人によって程度の差があると思うんだけれど、僕の中では割と強くて、今でこそ田舎に憧れを持つけれど、それと裏返しぐらいの感じで都会に対する憧れを持つ。
不思議なのは TRF の CD を教室で初めて聴いたときにそれをカッコイイと思えたのは自分にとって何だったんだろうみたいな。

これが自分の中でまだ探しきれてなくて、なんで DJ という存在をカッコイイと思えたのか。掘り切れていない。
本能的なものもあるかもしれないけれど、自分としては理由があったんじゃないかと思う。

-そういった感覚も選曲のときと一緒で言語化するように意識されているんですか。

DJ YEW:できるんじゃないかなとは。子ども時代、過去を振り返るとそこに何かあるんじゃないかって。サッカーをやっていた記憶しかない。

-サッカーをやられていたんですね。

教室で学校の休み時間で遊ぶみたいな感じでやっていた。もしかするとテレビで洋楽的なものを無意識のうちにカッコイイものとして感じていたのかもしれない。TRF という日本人のグループなのに洋楽的なことをやっている、それが凄くかっこよく聞こえたのかもしれない。

-学校教育の反動的な部分もあるのかもしれないですね。

DJ YEW:とにかく学校教育自体が、特に美術とかそうだったと思うけれど、感じたままにやりましょう、人と違ってみんないい的な教育が当時は絶対あったからそれを真に受けていた。
「人と違うことをやるのがいいんだ」と額面だけ取っていたけれど、なぜ人と違うことをやるのがいいのか、という話になってくるとそれは新しい人類の文化が広がる可能性がある。バリエーションが増えることが人類全体にとっていいことなんだって。

それをセットで教えてほしかったですね(笑)。

-確かに(笑)。

DJ YEW:みんな違ってみんないいだけだと、わかんないよね。人間は絶滅しないように本能的にはプログラミングされているはずだから自立進化の可能性に惹かれるのは、強さの差はあれど誰かしらあるんじゃないかと思う。それが自分の中で強かったのかな。

『アーカイブという点で、ヒップホップを後の世代に伝えていく』

7.今後の目標

DJ YEW:現時点で進行中ではあるんだけれど、カセットテープ DJ のプレイヤーを増やしたい。不便な機材であるからこそ色んな人の工夫を知りたい。「こうやると上手くスクラッチできます」とかそういうアイデアが世界中から出てくれば、カセットテープ DJ はひとつのカルチャーとして定着すると思うし、それを切磋琢磨していく楽しさは絶対あると思うから。

PCDJ をやり玉にあげるわけじゃないけれど、あれはソフト開発側の思惑を超えるものは出てこない。それで足りているのでそれ以上のハックが出てきにくい。
できることが限られている機材の方が上手くやろうという意欲が出てくるからそういう制限の楽しさがある。

カセットテープ DJ に限らずアーカイブという点で、自分たちが聴いていた音楽、具体的にはヒップホップだと思うんだけれど、ヒップホップを後の世代に伝えていく。
先ほどのヒップホップが出てきた話と関連しているんだけれど、スタイルに流され過ぎない新しい音を出す人たちを自分も見たい。そういう人たちが出てきやすいような動きを自分自身でしてヒップホップに貢献できたらなと。

「匍匐前進 Part.2 / 麻起 a.k.a.某カノ(DJ YEW 氏がスクラッチを担当)」


*27 DJ HONDA…北海道出身のDJ・音楽プロデューサー。1980年代からニューヨークを拠点に活動し、ヒップホップの本場で数多くのラッパーと共演。KRS-One、Mos Def、Commonら海外の著名なラッパーとも作品を制作している。


DJ YEW

– profile –

アナログレコードとヒップホップマナーにこだわり、ターンテーブリズムとユーモアと批評性が共存したDJプレイを行う。新宿ドゥースラーにてラウンジイベント・YR Lab.をRe+と共に開催中。大江戸テクニカ氏開発のカセットテープDJ装置を使ったDJイベント、阿佐ヶ谷カセットテープDJサミットにレギュラー出演中。

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